ハンス・ジマーの“真価”を大スクリーンで堪能 名曲の数々がコンサート映画で蘇る

2025年5月に横浜と名古屋で開催された、映画音楽界のレジェンド、作曲家ハンス・ジマー初の来日公演「Hans Zimmer Live in Japan」。ハンス・ジマー本人のパフォーマンスはもちろんのこと、壮大な演出とともに彼が生み出した楽曲を多数のアーティストが歌い演奏した時間は、日本の大勢の聴衆を魅了し、公演は大盛況とともに幕を下ろした。SNSでも映画ファンを中心に大きな話題となったことが、記憶に新しい。
そんな熱狂の瞬間が、今度は劇場のスクリーンと音響空間によって体験できる。映画『ハンス・ジマー&フレンズ:ダイアモンド・イン・ザ・デザート』は、ドバイで行われた公演の模様を基に、映画ならではのさまざまな映像や演出を追加することで、ハンス・ジマーの音楽性や、彼の仕事の真価を堪能できる一作に仕上がっている。
ハンス・ジマーといえば、現代の映画音楽において、最高の評価を得ている一人である。映画ファンならずとも、彼のかかわった映画作品を鑑賞したり、その音楽を耳にしたことが、きっとあるはずだ。
『レインマン』(1988年)や『ドライビング Miss デイジー』(1989年)で心に残る印象的な旋律を生み出し、『ライオン・キング』(1994年)でアカデミー賞、『クリムゾン・タイド』(1995年)でグラミー賞を受賞。そして、『グラディエーター』(2000年)、『M:I-2』(2000年代)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『ダークナイト』(2008年)を中心とするクリストファー・ノーラン監督の『バットマン』シリーズ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE/デューン 砂の惑星』シリーズなどなど、ハリウッドの有名作、超大作、著名監督による時代を象徴するような作品を音楽面で支え、観客の感情を直接揺さぶる音楽を、ハンス・ジマーはこれまで生み出してきた。
オーケストラとコーラス、シンセサイザー、パーカッションの大胆な融合により、脅威的な厚みを音に持たせて、映画音楽を変革させた『クリムゾン・タイド』がそうであったように、ジマーの音楽の魅力は、その旋律の美しさのみにとどまらない。伝統的、アカデミックな音楽教育を受けてこなかった彼だからこそ、いつでも貪欲に音の世界を探究し、ときに新たな楽器を製作してしまうという実験的なアプローチによって、常識を超えて聴く者の感情に直接届くサウンド、スコアを生み出している。
多くの映画作曲家は、映像や演出に音楽を馴染ませ、映画を盛り上げることを目指す。だが、ジマーの曲はしばしば、ある種の独立した存在感を発揮する。音楽自体がストーリーテリングまでしてしまうという点では、ジョン・ウィリアムズやダニー・エルフマンなどの傑出した映画作曲家のアプローチとも共通するところだが、さらにジマーは、ときに映像や脚本よりも前に出て、根底の精神性までをも雄弁に語ろうとするときがある。そんな、映画監督の手腕を問うてくる挑戦的な姿勢があるからこそ、彼の音楽はそれ自体が“映画”だとすら感じられるのである。
本作で描かれるドバイ公演の舞台は、中東最大級の「コカ・コーラ・アリーナ」だ。ドバイの華やかさと活気、そして未来都市を象徴するランドマークといえるアリーナである。大勢の観客を前に、ジマーとその仲間たちは、そんな広い会場をさらに包み込んでしまう壮大な映画の世界と物語を、音によって繰り広げていく。
このライブの特別さは、演奏者たちの多彩さにもある。ジマーの盟友でもあるギタリスト、ガスリー・ゴーヴァンは変幻自在なプレイで、ジマー特有の灼熱のギターサウンドを、余すところなく表現。国際的なチェリスト、ティナ・グオは『ワンダーウーマン』(2017年)の楽曲などでステージ中央の前面に立ち、ボディがくり抜かれた未来的なエレクトリックチェロを武器に、女性バイオリニストたちとともに攻撃的な演奏を披露する。さらには、アフロヘアがトレードマークのペドロ・ユスタシュが、笛系楽器を自在に操り、楽曲に地理を感じさせる風を吹き込んでいく。
『グラディエーター』の曲を歌うリサ・ジェラルド、『ライオン・キング』のレボ・モラケなど、声で会場を圧倒するアーティストたちも登場。ジマー自身も楽しげにキーボードを弾きながら、観客とコミュニケーションをとる。日本の坂本龍一のライブがしばしばそうであったように、舞台上にはさまざまなルーツの人種が集い、多国籍でありつつボーダーレスな世界が表現されるのだ。
























