ハンス・ジマーの“真価”を大スクリーンで堪能 名曲の数々がコンサート映画で蘇る
本作が特徴的なのは、この演奏シーンが、ライブがおこなわれたコカ・コーラ・アリーナだけに収まらないところだ。ジマーの音楽と呼応するように、ドバイの自然の風景や街並みが演出として組み込まれるのである。冒頭の『DUNE/デューン 砂の惑星』の楽曲では、まるで映画のロケ地そのものの壮大な砂漠で太鼓が打ち鳴らされる。
『グラディエーター』では古代の世界観のなかで、『ダークナイト』ではドバイの夜の都会の街並みとともに、そして『インターステラー』では、2020年の万博会場「アルワスル・ドーム」の天井に映像が投影されるという、各楽曲に相応しい環境で、演奏シーンがあらためて撮影されている。演奏場所が移り変わるという映画のなかの一部演出は、通常のライブツアー映像では実現し得ないものだ。
演奏の合間には、ジマーとかかわりのある人物たちとの対談映像が差し挟まれる。俳優として協働したティモシー・シャラメ、ゼンデイヤや、ジェリー・ブラッカイマーら映画プロデューサー、ビリー・アイリッシュやファレル・ウィリアムスらアーティスト、そしてタッグを組んだ映画監督クリストファー・ノーラン、ドゥニ・ヴィルヌーヴとの興味深い対話が紹介され、ジマーの音楽がどのように映画に影響を及ぼし、時代のなかでどう意味を持ってきたのか、そして映画音楽とは何かという、本質的な問いが語られていく。
ヴィルヌーヴ監督はそこで、音楽を「猛獣」と表現し、手なずけながら映画のなかで共存する難しさを口にする。前述したように、ハンス・ジマーの音楽は、数多の作曲家のなかでもとりわけ強靭さを発揮する。ヴィルヌーヴ監督のような作家性が強く映像を十分にコントロールし支配しようとする監督とは、一見相性が悪いのではないかと思わせるところもある。しかし、主張が強いからこそ、そこに拮抗したバランスが生まれ、両者がスリリングに互いを高め合う関係を作り出せるということが、彼らの会話のなかで理解できるのだ。
クリストファー・ノーランとのトークでは、「あなたとの仕事は命懸けだ。本当に死んでもいいと思って作曲している」と発言する場面がある。それがリップサービスではないのが分かるのは、『ダークナイト』でジマーがアイデアを際限なくつめ込んでいき、オーケストラとともに延々とテイクを重ね続けたことで、ノーラン監督が自らストップをかけなければ終わらなかったというエピソードが紹介されるところだ。
当時すでに映画音楽の巨匠として知られていたジマーが、まるで燃える青年時代であるかのように、音楽に全ての情熱と創造力を注ぎ込む。だからこそ、ハンス・ジマーの楽曲には、常識を外れた圧倒的な迫力、そして精神性が宿っていることが理解できるのである。映画のタイトル「ダイヤモンド・イン・ザ・デザート」、すなわち「砂漠の中のダイヤ」とは、無尽蔵の砂の中の宝石を見つけ出すまでに、音楽への激しい思いがそこに存在することを象徴させているのだと考えられる。
ハンス・ジマーの公演が、単なる映画音楽のコンサートであることを超越しているように、この映画もまた、多くのコンサート映画の領域を逸脱している。それは、映像が音楽を補強するという、映画音楽としては逆転的な構図のなかで、“映画音楽がいかに映画を語る力を持つのか”という、現在のジマーだけがなし得る、壮大な実験の場でもあるからだ。そんな本作『ハンス・ジマー＆フレンズ：ダイアモンド・イン・ザ・デザート』を十分に味わうためには、やはり劇場が最適な場所となるだろう。
■公開情報
『ハンス・ジマー＆フレンズ：ダイアモンド・イン・ザ・デザート』
7月11日（金）TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
出演：ハンス・ジマー、ビリー・アイリッシュ、クリストファー・ノーラン、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ
監督：ポール・ダグデール
プロデューサー：サイモン・フィッシャー、スティーヴン・コフスキー、マイケル・マルト、オマール・サーブ、ジョン・フェザーストーン
エグゼクティブ・プロデューサー：ジェリー・ブラッカイマー、スティーヴン・コフスキー、マイケル・マルト、オマール・サーブ、ポール・ダグデール
制作会社：Jerry Bruckheimer Films、RCI Global、Executive Visions、Si Fi Productions
制作国：アラブ首長国連邦（ドバイ）
配給：Trafalgar Releasing（中東地域を除く全地域）、VOX Cinemas（中東地域）
日本配給：カルチャヴィル合同会社
2025年／158分／原題：Hans Zimmer & Friends: Diamond in the Desert
©︎RCI Global LLC
公式サイト：https://www.culture-ville.jp
