映画『メイドラゴン』が描いた“毒親”と子どもの物語 あの頃“小林さん”がいてくれたら……

実際、キムン・カムイは悪い人間(ドラゴン)ではない。彼がカンナの「放任・ネグレクトの最低の父親」と知る前、小林さんは“酒の趣味が合う愉快なおっさん”として仲良く盃を交わし、トールもキムン・カムイを「(戦いにおいては)とても気持ちの良い戦士」と評した。だが、悪意がなかろうが、娘を振り回して傷つけたことに変わりはない。毒親とは、必ずしも“悪意”で生まれるわけではないと知った。私の父も、おそらく悪意ではなく、自分の“純粋な欲望”に走った結果のクズだったんだろう。(もちろん悪意ある毒親もいるだろうが)
こんなことを言っていると、「親に対して敬意が足りない」だの「父親と和解して、いつか酒を酌み交わしてほしい」だの、こちらの事情も内情も感情も知りもしないで勝手なことをのたまう他人が出てくる。しかし、こちらとしては「うるせえ」であり、「おまえには関係ねえ」であり、そんな奴らは皆「ファック」なのである。
私はこのように歪んでしまった人間だが、カンナには小林さんがいる。血の繋がりはなくとも、血の繋がった毒親、しかも強大な力を持つ相手にだって啖呵を切って、命すらかけてくれる。
本作では、とあるキャラクターがあるシーンで、そんな小林さんを差して「俺の時はあんなやついなかったじゃないか! 救ってくれるやつなんて!」と叫ぶ。それは私の、私たちの代弁だ。自分たちにも小林さんのような人がいてくれたら、どれだけ救われただろうか……私は、カンナに幼い頃の自分を重ね、あの頃いくら望んでも叶わなかった夢を見せてもらったような、勝手に救われた気持ちになった。
コラムの締めとしては「父に久しぶりに会いたくなった」のような落とし所が綺麗だろうが、そんな気持ちはまったくない。だが、本作でトールがこのように言っていた。
「死ぬまでは、その考えが最終地点にはならないと思うんです。信じられないものが信じられるようになったり、考えは変わって戻って、また変わって。命が終わるまで続いていく」
私もいつか、トールやカンナにとっての小林さんのような、考えを変えるきっかけに出会うことがあるのだろうか。長年染み付いた考えが変わるというのは大変なことだろう。しかし、小林さんと出会ったドラゴンたちの幸せそうな姿を見ていると、私にもそんな出会いがあったらいいなと夢を見てしまう(もういい歳した大人ですけどね)。
■公開情報
映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』
全国公開中
キャスト:長縄まりあ(カンナ役)、田村睦心(小林さん役)、桑原由気(トール役)、高田憂希(エルマ役)、髙橋ミナミ(ルコア役)、杉浦しおり(イルル役)、小野大輔(ファフニール役)、中村悠一(滝谷真役)、加藤英美里(才川リコ役)、石原夏織(真ヶ土翔太役)
原作:『小林さんちのメイドラゴン』クール教信者(双葉社『漫画アクション』連載中)
監督:石原立也
シリーズ監督:武本康弘
脚本:山田由香
キャラクターデザイン・総作画監督:門脇未来
美術監督:笠井信吾
色彩設計:髙橋奈緒美
小物設定:唐田洋
撮影監督:植田弘貴
3D監督:山本倫
オープニング主題歌:fhána「涙のパレード」
エンディング主題歌:小林幸子「僕たちの日々」
挿入歌:コトリンゴ「ねがいごと」
音楽制作:ランティス・ハートカンパニー
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:ドラゴン生活向上委員会
配給:松竹
©クール教信者・双葉社/ドラゴン生活向上委員会
映画公式サイト:https://maidragon.jp/movie/
アニメポータルサイト:https://maidragon.jp
アニメ公式X(旧Twitter):@maidragon_anime
アニメ公式TikTok:@maidragon_anime_official






















