映画『メイドラゴン』が描いた“毒親”と子どもの物語 あの頃“小林さん”がいてくれたら……

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。今週は、翔太くんに“目覚め”させられそうになった小野瀬が、映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』をプッシュします。
映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』

いきなりプライベートな話で恐縮だが、私の父親はクズだった。
詳細に関しては控えるが、そのクズっぷりたるや、まるでドラマや映画の登場人物さながら。もう長いこと会ってもいないし、おそらく、もう二度と会うこともない。しかしそんな環境で育ったからこそ、“父親”という存在に一種の憧れがある。
前置きはここまでにして、今回私が紹介するのは、映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』。『小林さんちのメイドラゴン』とは、クール教信者が『漫画アクション』(双葉社)にて連載している漫画および、同作を原作とするアニメシリーズだ。
メイドを愛するOL・小林さんと、小林さんを愛する“メイド”のトールをはじめとするドラゴンたちが、“この世界”にそれぞれの居場所を見つけ、“異種間コミュニケーション”していく様子を描いている。アニメ版は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『響け! ユーフォニアム』などを手掛け、クオリティの高さに定評がある“京アニ”こと京都アニメーションが制作し、2017年にTVシリーズ第1期、2021年にTVシリーズ第2期が放送された。
人間とドラゴンたちが異種族間交流を通じて互いに理解を深めていくストーリー、非常に高品質なアニメーション、3人組バンド・fhánaや声優ユニット・ちょろゴンずによる主題歌(映画では小林幸子がエンディングを担当!)……と、様々な魅力に溢れている。そして『メイドラゴン』を語る上で避けられないのは、原作者・クール教信者が生み出した個性(とバスト)が豊かなキャラクターたちと、それの高次元での再現、どころかさらに加速させた京アニによる“フェティシズム”。特に、カンナ・カムイの“子どもらしい体型”と“ムチムチすぎる太もも”が男女問わずオタクたちの心を鷲掴みにした。本作で“目覚めた”人も多いのではないだろうか。サブスクの浸透や“推し文化”の流行により、アニメ鑑賞がかなり一般的な趣味となった昨今、小さい子がこんなの観たら性癖がぶっ壊れてしまうだろう。
『さみしがりやの竜』は、そんなカンナにフィーチャーした新作映画だ。カンナはもともと、“イタズラ”をしてドラゴンの群れから追放された子どもである。慕っていたトールを追って小林さんの家を訪れ、トールを取り戻すため小林さんを殺そうとまでする。だが、行き場のない自分に対して、優しく手を差し伸べた小林さんに心を許し、やがて家族のような関係になっていった。そこに突然現れたのが、カンナの実の父であるキムン・カムイである。
この男は、戦いと酒のことしか考えていない完全な脳筋ドラゴンで、敵対勢力との“戦争のため”に「お前が必要になった」と一度は追い出した娘・カンナを呼び戻しにやってきた。小林さんはこの申し出に対して当然キレる。ずっと父親からの愛情に飢えてさみしい思いをしてきたカンナも、普段の無表情を崩し、激怒した。
キムン・カムイの行動は人間の、“こちら側”の物差しで測ると完全に非常識。まさに“毒親”だ。しかし、ドラゴンは親が子を守り育てるという概念がなく、“親子”であっても“仲間=戦力”という意識だそう。人間社会で人間と共存するカンナたちがイレギュラーであって、キムン・カムイには悪意も邪気もなく、それはドラゴンの、“あちら側”では普通なのだ。





















