全てが予想外! 痛快暴力で突き抜けるインドアクション『レオ:ブラッディ・スウィート』

パールティバン(ヴィジャイ)は、善き家庭人である。インド北部でカフェを営みながら、動物保護活動家としても活動し、周囲の信頼も厚い。今日も村に紛れ込んだ人食いハイエナを身ひとつで制し、さらにはご家庭のペットに迎え入れる異常なまでにデカい器を見せていた。平和な日々を送るパールティバンだったが、ある夜、経営するカフェで極悪強盗団に出くわしてしまう。強盗団が娘に手を出そうとした、まさにその瞬間――パールティバンは落ちていた拳銃で5人の眉間を綺麗にブチ抜いた。裁判で正当防衛が認められ、彼は一躍ヒーローに。

しかし、その後もパールディンは殺された強盗団の報復に来た男たちを速攻で返り討ちに。さらには気合いの入った悪党たちが村に大挙して乗り込み、「こいつはパールティバンなんかじゃない。血も涙もない殺人鬼、レオだ」と主張するなど、物騒な展開が相次ぐ。さすがに家族も疑い始めた。「この人、普通じゃないのでは?」。
本作『レオ:ブラッディ・スウィート』(2023年)は、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005年)に影響を受けた作品だ。(※)『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は「平凡な中年男性が、実は過去を隠し持っており、壮絶な暴力の使い手だった」……という近年だとリーアム・ニーソン映画でよく見る設定を、「主人公がリアルにバイオレンスな人だったらメチャクチャ怖くない?」という視点からサスペンスとして組み立てた映画である。身近な人間が殺人という恐ろしい行為に手を染めている恐怖。どれだけ平和を望んでも血みどろの過去が追ってくる……そんな、なんとも言えないやるせなさ。そして「暴力に応えるには暴力しかないのか?」という重すぎる問いかけ。『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は今でも傑作として語り継がれている。

そんな重くて暗くて血みどろな『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に対して、本作は……血みどろ娯楽ド真ん中! とにかく自由である。というか『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は原作漫画が存在して、クローネンバーグ版も原作と全く印象が異なるが、こっちもこっちで全く違う(原作者は今頃、何を想っているのだろうか?)。インド映画らしく、ちゃんと歌って踊るし、何よりスケールが違う。端的に言うと、すごい数の人が死ぬ。『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は怖い顔のエド・ハリスと数人の仲間たちが脅しにくる程度の話だったが、『レオ:ブラッディ・スウィート』では100人近い悪漢と戦う。ほとんど『野望の王国』のスケール感だ。しかも殺し方が非常に多種多様で、アクション映画としての魅力が満載なのだ。ひとえに監督のローケーシュ・カナガラージの気合の入ったアクション映画マインドによるものだろう。