Netflix版『三体』にみる作り手の覚悟 原作の解体と再構築によって“笑って泣ける”ドラマに
高山善廣vsドン・フライ戦のようなドラマ化! 遂に配信が始まったNetflix版『三体』(2024年~)は、強大な原作を相手に正面からガンガンに殴り合うような、解体と再構築がなされている。原作ファンの物議を呼ぶこと必至だろうが、私は原作の要素――しかも1~3巻までを通して――を笑って泣ける8話のドラマにまとめあげた剛腕を評価したい。以下、できる限りネタバレ抜きで語るために、表現が回りくどくなることを許してほしい。お願いします。
まず原作をザックリ説明しよう。世界中で科学者が怪死する事件が起き、中国の刑事・史強(シー・チアン)は懸命に捜査を続けていた。一方その頃、ナノテクノロジーの専門家・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある時から視界に謎の数列が見えるようになる。数列はカウントダウンで、目をつぶっても視界に浮かび、時が進み続ける。やがて史強は汪淼と接触し、2人は科学者怪死事件を追うことに。やがて彼らは謎のVRゲーム「三体」の存在、文化大革命の時代を生きた科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)の壮絶な半生、中国国家の極秘プロジェクト「紅岸計画」、そして事件の裏にある想像を絶する現実を知るのであった。
また書くが、原作は非常に複雑である。物理や天文学の話が飛び交いまくるし、スケールが文字通り宇宙レベルでデカい。こちとら生まれた時から私立文系で、数学のテストが0点で膝から崩れたこともある。そんな私であるから、恥ずかしながら読んでいてサッパリ分からないところが多々あった。それでも面白く最後まで読めてしまうのは、とにかく勢いのある読ませる文章と、「人列コンピューター」や「古筝作戦(こそうさくせん)」といった実際の映像を想像するだけでワクワクする強烈なアイデア、そして登場人物たちが魅力的だからだ。この点にNetflixも実写化の勝機を見出したのだろう。
今回のNetflix版もキャラクターが重視されている。物語は1、2、3とある原作『三体』を全部通してガッチャンコ。全巻の登場人物を「オックスフォード大学で共に物理の研究をしていた悪友たち」に置き換え、彼ら・彼女らが大事件に巻き込まれていくのだが……。そこは、ご飯、下ネタ、変人奇人、大麻に定評のあるNetflix。登場人物らを物理学に長けた人々としつつ、非常に人間くさいキャラに作り上げている。なかなか意中の人に告白できない青年や、とっくの昔に切れてそうなのにダラダラと関係を続けるカップルなど、いい意味で月9的な要素を混ぜ込んでいるのだ。もちろん『三体』と月9なんて水と油に思える。私も前半はそういった展開に不安を覚えた。しかし後半になってくると、これがしっかり活きてくるのである。
オリジナルキャラで魅せる一方で、原作のキーパーソン、葉文潔は非常にしっかりと描かれている。時代や国家といった巨大な存在に虫ケラのように踏みにじられた彼女が、復讐心の塊となっていく姿は強烈だ。ちなみに、この過去パートが中心になる第1話・第2話話の監督は、『ソウルメイト/七月と安生』(2016年)や『少年の君』(2019年)を手掛けた香港青春映画の名手デレク・ツァン(父はエリック・ツァン!)。短い尺で少女がブッ壊れていく姿を見せ切るのはさすがの手腕である。