『リロ&スティッチ』とエルヴィス・プレスリーの意外な繋がり 作品を彩る楽曲たちを解説

『リロ&スティッチ』とエルヴィスの楽曲

 エルヴィスは本作の舞台となっているハワイとも深い関係がある。1961年の映画『ブルー・ハワイ』をはじめ、彼は複数の作品をハワイで撮影しており、1973年にはホノルルで世界初の衛星生中継コンサート『アロハ・フロム・ハワイ』を開催。この公演はチャリティとしても知られ、ハワイ現地における彼の評価は今も高い。その歴史を踏まえれば、ハワイを舞台にした『リロ&スティッチ』においてエルヴィスの楽曲が使われるのは、偶然ではなく文化的に必然とすら言える。観光地的な視点ではなく、地元のリアルな暮らしを描くこの作品においても、エルヴィスはただのノスタルジーではなく、“そこに存在していた”リアルな文化の一部として映っている。

 作中で、リロはエルヴィスを「模範市民」だと語り、自らの生活の中にエルヴィスの存在を積極的に取り入れている。彼女の部屋にはポータブルのレコードプレーヤーがあり、CDが主流だった当時にあえてヴァイナルで音楽を聴いている姿は、彼女のユニークな感性と、過去へのつながりを象徴するものだ。おそらくそれらのレコードは、亡き母の遺品であり、家族とのかけがえのない記憶と結びついた存在なのだろう。

 そんなリロがエルヴィスの音楽に惹かれるのは、単なる趣味嗜好の問題ではない。観光客からも、学校のクラスメイトからも浮いてしまう彼女の孤独に、エルヴィスの楽曲がそっと寄り添ってくれたのではないだろうか。たとえ恋愛をテーマにした大人向けの歌であっても、リロにとってはそれが「愛されたい」「誰かに必要とされたい」という普遍的な願いと重なり、心の奥に深く届いていたのかもしれない。エルヴィスの歌は、彼女にとって自分を肯定してくれる存在となっていた。

 そう、『リロ&スティッチ』は、家族をテーマにした作品でありながら、エルヴィスの音楽がそのメッセージを支える柱として機能し、ただの挿入歌ではなく、キャラクターの心に寄り添う音として物語を導いている側面がある。リロにとって、そして最終的にはスティッチにとっても、エルヴィスの楽曲は模範であり、救いであり、家族に必要な心のよりどころだった。だからこそ、あの楽園の島に響いたエルヴィスの魂は、今もなお観る者の胸に温かく残り続けているのだろう。『リロ&スティッチ』を観る際には、ぜひエルヴィスの歌声にも耳を傾けてみてはいかがだろうか。

■放送情報
『リロ&スティッチ』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、6月6日(金)21:00~22:54放送
※本編ノーカット放送
声の出演:山下夏生(リロ)、山寺宏一(スティッチ)、田畑智子(ナニ)、飯塚昭三(ジャンバ)、三ツ矢雄二(プリークリー)、郷里大輔(コブラ・バブルス)、谷育子(議長)、猪野学(デイヴィッド)、石塚運昇(ガントゥ)
監督・脚本:クリス・サンダース、ディーン・デュボア
製作:クラーク・スペンサー
オリジナル・アイデア:クリス・サンダース
©2025 Disney

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