『未知のソウル』に漂う“名ヒーリングドラマ”の予感 パク・ボヨンの繊細な演技も必見

『未知のソウル』パク・ボヨンの演技は必見

 一方のミジも、ミレと入れ替わり明るい“陽キャ”として、痛快にミレの代わりに仕事をやるかと思いきや、彼女が持つ暗いの側面が描かれる。ミジには、高校時代に陸上選手として活躍する夢が怪我によって絶たれるという悲劇的な過去があり、そこから3年間部屋に引きこもっていたのだった。

 ミジとミレの学生時代は、『ラケット少年団』で天才バドミントン少女のハン・セユン役で爪痕を残したイ・ジェインが演じている。イ・ジェインもミジとミレの1人2役を演じているのだが、一見陽気なミジと、内向的なミレを巧みに演じ分けている。ホスの学生時代は、『スタディーグループ』のパク・ユンホが演じており、精彩を放つミジと、ユンホの淡い恋物語も見どころだ。

 本作は、ミジとミレの入れ替わりをきっかけとして、彼女たちがそれぞれ持つ心の痛みと苦難を乗り越えていく成長物語を軸に、彼女たちがそれぞれホスやハン・セジン(リュ・ギョンス)と恋を育んでいくさまも描かれる。特に、ミジとホスは互いに初恋相手であった。思いが通じ合う間際に、ミジが陸上大会で怪我をしてしまうのだが、そこにはミレがホスに抱きついている姿を目にするというなんともショッキングな展開があった。さらに、ミジの学生時代の友達ジユン(ユ・ユジン)も、最初はミジと仲が良かったのに、いつしかミレの方に行ってしまったが、大人になってからなにか裏がありそうな気配が醸し出されている。

 ミジとミレを中心に、ふたりの母オッキ(チャン・ヨンナム)と、祖母ウォルスン(チャ・ミギョン)との関係性や、ホスと先輩弁護士チュング(イム・チョルス)とのやり取りなど、どこを切り取っても余分な所のない心に刺さる台詞が連続で繰り出される。セジンから不躾なやり方で評価をされたと感じたミレが、公企業での自身への仕打ちと同じように感じて憤懣をぶつけたときの言葉や、障害を持つホスと、同じく障害を持つチュングが「強さ」と「弱さ」についてぶつかり合う場面。ミジが祖母の身体が不自由になった原因として自身を責め続けている様子など、観る人の数だけの共感できる部分があり、“刺さる”部分があるだろう。ミジにも「ミレ」という他人になって気づいたことがある。それは、「他人になって初めてー私の天敵は私自身だと気づいた」という自身のアイデンティティにも関わる大切なことだ。

 本作の企画意図には、「私の生活はこんなに複雑に絡み合っているのに、他人の生活は本当にシンプルで簡単に見えることがあります。もし私があの外見だったら、あの条件だったら、あの性格だったら……人生は今より簡単だったかもしれないと想像してしまうのです。しかし、実際に誰かの人生を詳しく覗き込んでみると、それぞれが痛みと苦難を抱え、ただ幸せになるために必死に努力する私と同じ人間だと気づき、ようやく愛と憐れみでその人を見ることができるようになります。しかし、自分自身に対してはどうか。これまでどんな痛みと苦難を抱えて生きてきたのか、誰よりもよく知っているのに、他人には厳しくしない厳しい基準で、自分自身を責め立て、憎んでいるのではないでしょうか?」(※)とある。

 ミジが言う、「私の天敵は私」が刺さる人が沢山いるのではないだろうか。あまりにも私たちは自分に厳しすぎるのだ。自分にも優しくしよう、大変な人生を生き抜いてきたことを誰よりも知っているのは自分自身なのだから。本作が語り掛ける温かな憐憫が、心に優しく染み渡る。物語は始まったばかりだが、この『未知のソウル』は傑作と呼ばれるレールを走りだした。名ヒーリングドラマとして名高い『サイコだけど大丈夫』のパク・シヌ監督と、同じく名作である『五月の青春』の脚本家イ・ガンが手掛け、パク・ボヨン、パク・ジニョンら繊細な感情を表現することに長けた役者たちが演じることで、素晴らしいヒーリングドラマが産声を上げた。

参照
※ https://tvn.cjenm.com/ko/Our-Unwritten-Seoul/about/

■配信情報
『未知のソウル』
Netflixにて配信中
出演:パク・ボヨン、パク・ジニョン、リュ・ギョンス
演出:パク・シヌ
脚本:イ・ガン
(写真はtvN公式サイトより)

 

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