フローレンス・ピューの家族観に共感? 『We Live in Time この時を生きて』ライター座談会

『We Live in Time』ライター座談会

夫婦間のコミュニケーションを誠実に描く『We Live in Time』

nakamura omame

nakamura:結婚って、「自由がなくなる」とかマイナスなイメージもあるじゃないですか。でも、前提として「人のせいにする」って悪いことばかりじゃないと私は思っていて。「家族がいるからできない」って一種の言い訳ですけど、それを武器にするというか、いい意味で使ってラクに生きていくって大事だと思うんです。アルムートは自分の決めた道を進むときに、「家族のためよ」と言うんですよね。もちろんそれも本音だとは思うけど、本当はそれが自分のやりたいことであって、言ってしまえば家族を言い訳にしている。でも、それはトビアスへの信頼や関係性があるからこそできることで、「ああ、これが家族だよね」とすごく思いました。

ANAIS:あの言い合いのシーンは、かなり力強いですよね。

nakamura:もし自分の死が近づいていることがわかったら、「子どもとの時間に専念しよう」という選択をする方もいると思うんです。一方で、アルムートのように「子どもの記憶にカッコいい自分を残したい」と思う方もいる。どっちも母の愛ですし、他にも世のお母さんが観たらドキッとする展開がたくさんあると思います。言っていることが矛盾しているように聞こえるかもしれないですけど、子どものせいにして、本当はできることをやっていない人もいっぱいいると思うんですよ。でも、これは友達ともよく話すんですが、子どもがいるからってできないことはそうそうなくて。実は子どもがいても、なんでもできる。自分を含め、子どもを理由に諦めていることがある人も、この作品を観たらそうは言っていられないぞと。

明日菜子:深いですね。私は結婚していないので、「こんなパートナーに巡り会えるものなんだな」とすごく思いました。アルムートもトビアスも一度はパートナーとの関係を解消していて、それでもまた運命の人に出会えるというところに恋愛映画ならではのきらめきを感じました。しかもアルムートはフィギュアスケートをやめて、そこから料理に出会う。恋愛だけじゃなくて、人生においての運命的な出会いも、実は一回だけじゃないんだなって。それに、アルムートは「子どもを持たない」という考え方だったけど、トビアスと過ごすことで変わっていく。そうやって変わる瞬間が、人生には何度もあるんだなと考えさせられました。

ANAIS:たしかに、「考えって変わってもいいんだ」と思えますよね。それに卵巣がんと向き合う設定も女性としては他人事に思えないし、「自分にもそういう病気が見つかったらどうしよう」とすごく考えてしまいました。最近結婚した立場として、これから考えなきゃいけないことがこの映画には詰まっていたので、パートナーと2人でまた観たいですね。ちなみに、うちの夫はちょっとトビアスっぽくて、私はアルムートっぽいんですよ(笑)。

nakamura:うちもそうかも……。

ANAIS:アルムートが「自分が何者だったのか」を残して生きることに重きを置くのも理解できる。結婚をする前の私と、した後の私、どちらも大切にしながら「自分らしくあり続けていいんだ、それでOKなんだ」ということをこの作品から受け取れました。

明日菜子:たぶん、私たち3人ともアルムート側ですよね。男性が観るとまた意見が全然違うと思うので、おふたりのトビアスのお話も聞きたいです(笑)。

ANAIS:連れてくればよかった(笑)。アルムートが病気の身体でも無理をして自分自身を証明したくなるのはわかるけど、やっぱりトビアスの気持ちも彼女はわかってあげなきゃいけなかったよね、とも思います。私もケンカの途中でいろいろ気づいて反省するので、そういうシーンもすごくリアルに感じて。どちらの立場も描かれているので、アルムート側の女性が観たら彼の気持ちを学べるし、逆もしかりだなと思いました。

nakamura:反省するというのは、私も本当に同じで。こういう映画を観ると、「今を大事にしなきゃ」とすごく思うんですよね。だけど、それが長続きしないっていう。たぶんそれが人間なんだろうなと思うので、定期的にこういう作品を観て自分を律しています。うちのトビアスも、いろいろと思うところがあると思うので(笑)。

ANAIS:わかります。『ファーストキス 1ST KISS』を一緒に観てガン泣きして、ピザを一緒に食べて「大事にしよう、この時間」と思ったのに、2日後にはケンカしそうになって。「電気消し忘れてるぞ!」と言いそうになったところをグッと飲み込みました(笑)。

nakamura:2日は残ってたんだ(笑)。

明日菜子:まだ効いてた(笑)。

ANAIS:だから、この作品は忘れないように、定期的に観るべき作品だなって。

明日菜子:たしかに『ファーストキス 1ST KISS』が好きな人には、絶対に観てほしいです。それに時系列がシャッフルだから、何回観ても新鮮な気持ちで観られるし、気づきがありますよね。

nakamura:本当に。私、2回目のほうが泣きましたもん。

ANAIS:ちなみにどこで泣きました?

nakamura:2回目はすべてわかっているので、基本的にずっと泣きベースです。でも、やっぱりスケートのシーンですよね。

明日菜子:あのシーンは本当によかった……。亡くなることって周りも本人も悲しいと思うけど、感覚的には「こっち側から、そっち側に行った」くらいの些細なことというか。そのくらい軽やかに描かれているところがいいなと思いました。

ANAIS:誤解を恐れずに言うと、私はこういう作品がちょっと苦手なんですよ。だって悲しいから。病室のベッドで看取るシーンとか、いかにもだし単純に観ていて辛いので。だから本作の別れの演出は、本当に素晴らしかったです。

明日菜子:イントロダクションには「忘れたふりをしているけれど、私たちはみんな〈限りある時間〉を生きている」と書かれていて、本当にそうだなと。決して特別なことではないからこそ、最期の描き方も悲しいだけじゃなかったのかなと思いました。

nakamura:もちろん死に向かってはいるんだけど、あくまで“生きること”を描いている。最後の最後まで、彼女が生きていることが感じられて素敵でした。

ANAIS:どう伝えればいいかわからないですけど、「ちゃんと死ねる生き方をしよう」と思いましたね。それに、やっぱり定期健診に行こうと思います。

nakamura:忘れないように、2日以内に予約してください!

ANAIS:わかりました(笑)。この映画は観る方が自分事としても捉えやすいと思う作品だし、個人的にも人生についてあらためて考えるきっかけになりました。私は、こういう作品こそアカデミー賞に選ばれてほしいと思うんですけどね……。人生の中で振り返りたくなる作品だからこそ映画館で観たいし、観てほしい。大作アクションもいいけれど、ぜひ本作も映画館でご覧ください!

■公開情報
『We Live in Time この時を生きて』
6月6日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
出演:フローレンス・ピュー、アンドリュー・ガーフィールド
監督:ジョン・クローリー
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
2024年/フランス・イギリス/英語/108分/カラー/スコープ/5.1ch/字幕翻訳:岩辺いずみ/G
©2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
公式サイト:https://www.wlit.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/wlit_movie

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