木谷高明が語るブシロード20周年&IPビジネスの展望 「自社のIPが好きな人を採るべき」

TCGの海外展開

——トレーディングカードゲーム事業はどのように成長していくと見据えていますか?
木谷:ブシロードグループ全体で、カードゲーム事業の海外売上比率は約40%に至ります。ですから、やはり一つは海外展開だと思っています。
——海外展開の課題について意見を聞かせてください。
木谷: 海外展開の課題はわりとはっきりしていて、日本人・国内企業自身が抱えている問題です。もちろんどのエンタメ企業も当然「海外が大事だ」と言います。でもほとんどの企業は買いに来てくれたお客さんに対して商品を売っているだけなんですよね。海外戦略についてもだいたい50代か60代のおじいさんだけで議論していますが、少し無理があるのではないかと思います。あとはやはり外国人社員が活躍する場を広げきれておらず、いわば通訳やガイド代わりに働いてもらっているような場合もあります。ブシロードは外国人社員がメインスタッフとして活躍していますし、たとえばマレーシアにあるカードゲームの製造工場もグループ会社化したので、外国人社員比率と英語が話せる日本人社員を足すと全体で4割くらいになります。シンガポールには50人くらいの社員がいますが、日本から行っている人間は1人だけです。当然、社内での会話は100%英語になっています。
—— 海外出張のご様子などもご自身のSNSで積極的に発信されていますよね。
木谷:やっぱり会社の本気が伝わりますから。こちらが本気にならないと相手も本気になりません。おかげさまで仕事がすごくやりやすい環境にはあると思います。まぁ「カードゲーム事業で世界一を目指す」と言っておきながら、ユーザー数も売り上げも全然足りておらず、世界で言えば5番目か6番目くらいだと思うんですけれども、タイトル数で言えば11個くらいあって、これはおそらく世界一なんです。これだけのタイトルを運営している会社なんてまずないので、もし「タイトル数部門」があったとしたらきっと「世界一」なんでしょうけど、ユーザーの数や売上でも世界一を目指して頑張りたいなと思います。タイトル数をここまで増やせたのは、たとえばいま中国でもライブをたくさんやっていますし、カードやグッズもかなり輸出していますけども、それはやはり『BanG Dream!』という作品があったことが大きい。今思うとスタッフが慣れてきたというか、チームワークが秘訣だったかなと。協力する文化というか、部署が違うのに一緒にイベントに出たりとか、そういうのが理由なんだと思います。ゲームのパッケージにおまけを付けたいとなったらカードを付ければいいし、雑誌や書籍も同じことが言えます。イベントの来場特典とかにも使いやすいですし。あとはカードゲームが好きな人って、あまり「俺が俺が」というタイプはいないんですよね。そもそもカードゲームというのは一人で開発できるわけではないですし、お客さんに遊んでもらうために店舗さんとの協力も必要で……。要するにユーザーや店舗さんとのリレーションシップがものすごく大事なので、自分一人で何かを生み出すというより、協力するということが一番最初に来るんです。
—— あらゆるメディア事業を手掛けているブシロードならではのことですね。それにしてもプロテインの付録にカードが付いてくるのは初見では驚くというか、かなり独特な施策だと思います。
木谷: プロテインはブシロードウェルビーで始まった新規事業で、チャレンジングではあるんですが「ちょっと変わったこともやってみようよ」ということで、グループの中でもベンチャー的な要素を持っています。
——今後も何かベンチャー的な事業や、予想外の面白さを生むような施策は予定されていますか?
木谷: 今のところはありません。……ただ、新しいIPは作らなきゃいけないとは思っています。『ヴァンガード』、『BanG Dream!』に続く新しいIPを作るつもりでいます。でも、言われてみれば新しいことがどこから生まれるかというと、やっぱり既存の作品の中から出てくることは多いと思います。カードゲーム以外の部分は、やはり『BanG Dream!』、とくにMyGO!!!!!が中国でヒットしたことが大きいなと。作品をヒットさせるのが一番大事で、そうするとビジネスが広がるんですよね。

——オリジナルIPをゼロから生み出せるのもブシロードさんのすごいところだと思います。
木谷: 『ヴァンガード』に関して言えば、もともとオリジナルのカードゲームをやりたかったんです。でもちっちゃい会社が最初からそれをやるのはリスクがあるというか、できっこないので、最初はライセンスを貸してもらって作るプラットフォーム型の『ヴァイスシュヴァルツ』をやっていました。それが成功したからオリジナルとして『ヴァンガード』を始められたし、『BanG Dream!』も『ラブライブ!』プロジェクトに関わっていたからこそ始められたことです。音楽コンテンツの可能性はいろいろあるなと思っていたので。もちろんアイドルと同じことをやるわけにはいかないので「じゃあ次はガールズバンドだ」と思って始めましたが。
エンタメ産業における人材の変化

——エンタメ産業全体において今後ブシロードがどんなポジション占めたいか、展望を聞かせてください。
木谷:うちぐらいの規模でオリジナルIPをこれだけ持っている企業は、あまりないですよね。さらに大きくなるか、停滞していってどこかに取り込まれるかのどちらかしかもう選択肢はないと思います。もちろん大きくなるほうを選んでいますが。お金だけで測るわけではありませんが、売上としては1000億円に届かないとダメだと思っています。あとは世の中が、人もモノもどんどん上位概念に流れるようになってきているので、自分たちもそうならければならない。
—— 「上位概念に流れる」というと?
木谷:わかりやすい例では、要するに日本のプロ野球に対するメジャーリーグの関係です。20代の転職率も、日本は世界でトップクラスに多くなっています。みんな自分の給料を上げるために上位概念の企業に転職しているわけです。それはうちも同じことで、少し調子が悪くなると人が抜けて抜け殻みたいな会社になってしまいますし、エンタメ系の会社は特にそうでしょう。やっぱりみんな「やりたいことをやりたい」し、かつ「給料も欲しい」というのが今の時代ですよね。「やりたいことをやれたら給料が低くてもいい」という人は、今はいないと思います。逆に、「高い給料をもらったら何でもやります」みたいな人もそんなにいないような気がする。自分の納得いく仕事をやりつつも、高い給料をもらいたいというのは時代の空気だと思います。

—— 人材の変化についてブシロードが心掛けていることはありますか?
木谷: いくつかあるんですが、一つは新卒採用に力を入れていることです。なぜかというと、新卒の人には2年間値段がつかないからですね。社会人というのは3年目からようやく値段がついて、4年目、5年目になるにつれて転職が増えてきます。逆に言えば2年間は猶予期間だから、その間に抜擢する人材などを決められるわけです。もう一つは、そもそもブシロードのIPが好きだという人を集めるべきです。少し前までは「あんまり好きすぎると困るかな」と思っていたんだけど、やっぱり自社のIPが好きな人を採るべきだなと感じています。
——「好きなことは仕事にしないほうがいい」というような意見もあるなかで、それはおもしろい基準だと思います。
木谷:昔はそうでしたよね。でも今はそうでもない気がします。好きだからこそ打ち込めるわけだし、自分の専門性でキャリアアップしていくのが今の時代なので。好きなことを仕事にして、ずっとそれを続けることは昔に比べると容易ですよね。昔はやはり総合職として会社に入って、ローテーションをこなさなければならないことが多いから、好きな部署にいたとしても違うところに行ってしまう可能性もあったと思います。
—— 逆に言うと、自分なりにこだわりを持てないような領域では勝負にならないということかなと思います。
木谷:だからこれからは中堅以下の企業で自社IPを持っていない会社は辛いのではないかと思います。
——そういう木谷さんの仕事への姿勢は、どのように社員の皆さまに伝わっていますか?
木谷:伝わっている部分もあると思いますが、会社も大きくなりましたからね。2027年で20周年になります。
——20年を振り返ってみていかがですか?
木谷:「よくここまで来たな」という気持ちもあれば、「無駄なことをいっぱいやってたな」という気持ちもあって……。「20年やってこんだけかよ」みたいな気持ちもあるし、いろいろですね。なんだかんだ一番うれしかったのは、『ヴァンガード』が成功したときでしょうか。『ヴァンガード』の英語版を発表したときは世界中から問い合わせが来ました。あとはプロレスをうまく復活させることができたことですよね。

——プロレスとカードゲーム事業を両立させている企業というのはまずないですよね。
木谷:役員には「これはキャラクターコンテンツだから」という説得の仕方をしました。別にそれはその通りですから、おかげさまで継続させられています。
——20周年に向けて今後の展望を聞かせてください。
木谷:いま目標にしているのは、2年後までにリアルイベントの年間動員数を100万人にすること。音楽ライブやカードゲームのイベント、舞台、プロレスなどを含めて今は75万人ぐらいなんです。音楽はさらに力を入れていくことになると思います。
—— MyGO!!!!!、Ave Mujicaの合同ライブ「わかれ道の、その先へ」ではKアリーナ横浜で2日間のチケットを完売、プロジェクト史上最多動員数を記録しました。
木谷: 1.9万人×2日間ですからね。中国でも1万人を集められるわけですから、もっと上を目指したいと思います。たとえばシンガポールで1万人というとなかなか大変だと思いますが、まずはやはり中国、特に上海でインプレッションを増やしてSNSの拡散を狙っています。中国の各地に少しずつ小さなイベントを出展しているので、アジア全体に広げていきたいですね。2027年が20周年なので、ここを節目にして大きなことをやりたいなと思っています。今後のブシロードにとって2027年は一つの到達点であり、新たなスタート地点になるかなと。ありがたいことにいつもブシロードコンテンツを楽しんでいただいている皆様には、引き続き応援のほどよろしくお願いします。























