ここ数年でトップ中のトップの面白さ 『ザ・スタジオ』が描く“ハリウッドの現実”

『ザ・スタジオ』が描く“ハリウッドの現実”

 コメディ俳優、クリエイターのセス・ローゲンが、主演、監督などを務めて暴れまくるドラマシリーズ『ザ・スタジオ』は、「面白い」という点において、ここ数年でトップ中のトップといえる作品かもしれない。Apple TV+は視聴者からの大きな反響を受けて、先日、シーズン2の制作を発表した。

 全10話、それぞれだいたい30分前後で配信されている本シリーズは、ハリウッドの大手スタジオの内幕を、シャーリーズ・セロン、スティーヴ・ブシェミ、アンソニー・マッキー、ザック・エフロン、アイス・キューブなどなど、本人役の豪華なキャストが華やかに彩る。しかし展開するドラマは、さまざまな映画や業界にまつわる過激な言動に溢れていて、優れて批評的だ。それもそのはずで、本シリーズは、ロバート・アルトマン監督の同様のスタイルの映画作品『ザ・プレイヤー』(1992年)を参考にしているという。

 さらにはアニメシリーズ『ボージャック・ホースマン』のように、内省的な面も大きい。主人公である、映画を愛するスタジオ責任者マット・レミック(セス・ローゲン)は、ビジネスとしての義務感と映画界で評価されたい自意識との葛藤のなかで必死に奔走するものの、ひたすら空回りを続ける。本シリーズで巻き起こるトラブルの多くは、セレブな管理職の精神的な葛藤なのである。

 第1話は、大手映画スタジオ「コンチネンタル」で長く働くマットが、スタジオ責任者に抜擢されるエピソードだ。多くの映画作品の製作にかかわり、優れた映画人たちの才能に憧れてきた彼が、ついに輝かしい歴史を持つ映画スタジオを取り仕切る立場を手に入れたのだ。スタジオの事務所は、フランク・ロイド・ライトが設計したと説明される、荘厳な石造りの建造物。実際は簡易的な材質によってセット内に作られた架空の場所だと見られるが、その高い完成度が、大手映画スタジオの歴史の重みを感じさせている。

 だが夢のポストに就任早々、マットは現実を突きつけられる。CEOのグリフィン(ブライアン・クランストン)は一大プロジェクトとして、マットに「クール・エイド・マン」を題材にした大作映画の製作を直々に命令するのである。ちなみにCEOの役名グリフィン・ミルは、『ザ・プレイヤー』でティム・ロビンスが演じていた主人公の名前でもある。

 「クール・エイド・マン」とは、アメリカを中心に販売されている粉末ジュースのブランド「クール・エイド」のキャラクターだ。つまり、芸術性など微塵もない、メッセージ性の薄いファミリー向け娯楽映画、いわゆる「ポップコーンムービー」をメインのプロジェクトにしろと命じられたのだ。ハリウッドに歴史を刻み、オスカーを狙えるような“本物”の作品を生み出そうと夢想するマットは、いきなり出鼻を挫かれたというわけだ。

 ここですでに顔を見せているのが、“ハリウッドの現実”というテーマである。かつてアメリカ映画界は、娯楽に特化した作品を提供する一方で、大人のための作品も数多く生み出してきた。だが、利益を求め損失を防ぎたい映画会社の上層部や投資家などにより、続編企画や、子どもでも分かる単純な内容の作品が優先され、大人向けの芸術性の高い作品を撮りたいクリエイターたちは、厳しい状況に置かれているという状況がある。また、例えば歴史あるスタジオMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)がAmazonに買収された事実が紹介されるように、配信業者が映画業界を呑み込みつつある状況も、マットの悩みの種なのだ。

 日没前の時間帯にL.A.の街を見下ろす豪邸の庭、大きな椰子の木の下というアイコニックなシチュエーションで、マットがスタジオ責任者を解任されたパティ(キャサリン・オハラ)に語りかける不安な気持ちが印象的だ。

「僕は映画を愛しているし、作品を選ぶことができる仕事に憧れてきた。でもこの仕事は、映画を殺すこともできる……」

 この不安は映画に限らず、さまざまな分野の業界人が感じていることなのではないだろうか。夢を持って業界に入ったものの、理想に合った仕事ができないばかりか、ときに理想とは逆の方向に進まねばならなくなってしまう。下手をしたら自分の判断が、業界に致命傷を与えてしまうことになる。

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