いつ誰が観ても視聴者を魅了する 『るろうに剣心』が描いていた“令和”の主人公像

『るろうに剣心』が描いていた“令和”主人公

 第二期「京都動乱」の剣心の内面を象徴するのが、逆刃刀の描かれ方だろう。刃を内側に向けたこの特殊な刀は、その独特な形状が心の葛藤そのものを体現しているようにすら見える。第二十九話「再び京都へ」では、志々雄は不殺を貫く剣心にがっかりしたと言い、側近の瀬田宗次郎に戦いを任せる。抜刀術の打ち合いの末に逆刃刀は折れ、人を斬るのではなく守る道を選んだ剣心の決意の象徴が破壊される瞬間は、彼の生き方そのものが試されているかのようであった。

 そうした剣心の内面の葛藤をさらに引き立てているのが、それぞれの美学を持つ敵キャラクターたちだ。特に印象的なのが志々雄真実と四乃森蒼紫である。

 「幕末ってのは、戦国時代以来300年を経てやってきた久々の動乱なんだぜ。そんな時代に生まれ合わせたのなら、天下の覇権を狙ってみるのが男ってもんだろ」

 この台詞に象徴される志々雄の野望は、その包帯だらけのビジュアルと相まって観る者を圧倒する。時代に翻弄されながらも貫かれる信念からは、“十本刀”を束ねるに相応しい威厳が漂う。志々雄はその非道な暴力性を持ちながらも、多くの部下を魅了する深いカリスマ性を宿した存在なのだ。

 一方、江戸城御庭番衆の御頭・四乃森蒼紫は、“無血開城”によって闘うことなく幕末を終えたことへの無念を捨てきれないまま「最強」の証に固執しつづける異彩の人物。冷静な現実主義者でありながら第一期では、戦いの場でしか生きられない自分の部下、般若・火男・式尉・癋見の4人のために、戦場を求めて明治の世を彷徨う。京都編では彼を慕う操の存在も加わり、剣心が人斬りとしての過去を抱えた主人公であるように、見る者の立場によって英雄にも悪にもなり得る人物として描かれている。

 このように志々雄・蒼紫といった敵キャラクターの美学までも鮮やかに描き切る展開は、先述したような90年代半ばの『ジャンプ』作品などと比較すると極めて独特に思える。敵/味方を問わず明治維新という激動の時代に生きる者たちそれぞれが、剣心の葛藤をより深く浮かび上がらせ、本作は「力」と「正義」の意味を、観る者に問いかけてくる。

 しかしこのような『るろうに剣心』の独自性は、平成生まれ世代の筆者がいま新たにアニメとして観ると、むしろ普遍的な問いかけであるように感じられる。主人公の抱える美学さえも不確かなものとして、それぞれが信じる道を歩もうとする者たちの姿を描くこと。そこには単なる史実に基づいた勧善懲悪を超えた、人間の在り方への深い洞察が込められている。「心の中の弱さと共に、人はいかに生きるべきか」——この永遠の問いは、媒体も世代すらも超えて、今なお私たちの心を強く揺さぶってやまない。

参考
※1. https://natalie.mu/comic/pp/rurouni-kenshin
※2. https://rurouni-kenshin.com/music/

■配信情報
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』第2期「京都動乱」
各配信プラットフォームにて配信中
キャスト:斉藤壮馬(緋村剣心役)、高橋李依(神谷薫役)、小市眞琴(明神弥彦役)、八代拓(相楽左之助役)、大西沙織(高荷恵役)、内田雄馬(四乃森蒼紫役)、日野聡(斎藤一役)、山根綺(巻町操役)、中村悠一(比古清十郎役)、古川慎(志々雄真実役)、山下大輝(瀬田宗次郎役)、戸松遥(駒形由美役)、羽多野渉(悠久山安慈役)、岡本信彦(沢下条張役)
監督:駒田由貴
シリーズ構成・脚本:倉田英之
シリーズ構成・脚本協力:黒碕薫
脚本監修:和月伸宏
キャラクターデザイン:西位輝実、渡邊和夫
プロップデザイン:小菅和久
副監督:牧野吉高
アクションディレクター:菊地勝則
美術監督:齋藤幸洋
色彩設計:篠原愛子
3DCGI:松永航、中森康晃
撮影監督:髙津純平
編集:長谷川舞
音楽:髙見優
音響監督:納谷僚介
音響効果:小山恭正
アニメーション制作:ライデンフィルム
©和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会
公式サイト:https://rurouni-kenshin.com
公式X(旧Twitter):@ruroken_anime
公式Instagram:@ruroken_official
公式TikTok:@ruroken_official

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