『あんぱん』“早すぎる退場者”たち 加瀬亮×二宮和也×細田佳央太が刻んだ別れの美学

『あんぱん』“早すぎる退場者”たち

原豪(細田佳央太)

 物語の中盤、朝田家の石材店で働く若き石工・豪の存在は、一陣の春風のようだった。演じた細田の透明感と実直さは、祖父・釜次(吉田鋼太郎)への敬意や、蘭子(河合優実)への不器用な恋心を通じて存分に発揮された。

 特に、出征前に蘭子へ告げたプロポーズのシーンは、朝ドラ史上に残る名場面と称されるほどの完成度。言葉少なな愛の告白は、戦争という不条理がなければどれほどの未来を描けただろうか、と観る者に問いかけるようだった。豪の死は、単なるキャラ退場にとどまらず、昭和という時代が孕んだ非情さそのものだった。彼の不在が蘭子の人生に刻んだ痛みと、その後の彼女の生き方に与える影響は、作品の後半でさらに重みを持つことだろう。

『あんぱん』“退場者”に共通すること

 3人の退場に共通するのは、あっさりしているがゆえの強烈な余韻だ。それは、朝ドラという毎日の生活に中にある形式が生む感情移入と、短い登場で全てを託す俳優陣の力量の賜物でもある。また彼らの死や不在は、残された者の人生に深く作用し、のぶや嵩、蘭子といった若者たちの成長を導く触媒となっている。つまり、この喪失はストーリー上の“終わり”ではなく、別の誰かの“始まり”でもあるのだ。

 「もう一度会いたい」という願いは、視聴者が彼らの生き様に真摯に向き合った証でもある。結太郎がのぶに遺した帽子。清が嵩の心に灯した火。豪が蘭子に捧げた一輪の愛。それらはすべて、記憶となって『あんぱん』の中に生き続けている。

 そして、彼らがいたからこそ、この物語はアンパンマンという優しさの象徴へとつながっていくのだ。退場という別れの演出が、未来への希望を編み出す“種”だったことを、私たちは胸に刻みながら、今日もまた『あんぱん』を見つめている。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる