伊東蒼は”儚さ”が光る唯一無二の俳優だ 『今日の空が一番好き』での名演が胸を打つ

伊東蒼は”儚さ”が光る唯一無二の俳優だ

 伊東蒼が『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』に刻んだ素晴らしい演技を思い出すにつけ、涙があふれて止まらなくなる。これはもちろん、彼女が演じる“さっちゃん”という、無邪気でどこか儚げなキャラクターによるところが大きい。しかしそれ以上に私の胸を打つのは、この“さっちゃん”なる人物をここまでの純度で体現できる者は彼女のほかにいないはずだという事実である。これまでにも儚げなキャラクターをとおしていくつもの名演を刻んできた伊東だが、本作の彼女のパフォーマンスは屈指のもの。語り継いでいくべきレベルのものだろう。

 幼い頃より活躍していたことから“子役”として広く認識されていた伊東だが、年齢とキャリアを重ねるうちに、“元子役”というポジションからはすでに完全に抜け出している。

 2010年代初頭から俳優の世界に身を置いている伊東からすれば、優に10年以上は活動を展開してきた。だから2020年代はもはや「キャリア初期」などとはいえないのかもしれない。だが、彼女が“元子役”という肩書きを外してみせるためには、非常に重要な期間だったのだと思う。数多くの話題作に、重要な役どころで貢献してきたのだ。

 朝ドラ『おかえりモネ』(2021年度前期)では東北の震災で心に傷を負った少女を好演。ドラマがクライマックスへと向かう中、物語のバトンをつないでいくような役どころを担っていた。そしてその少し前に封切られた映画『空白』(2021年)では、非業の死を遂げる少女を演じ上げていた。この少女の死をきっかけとして物語は動き出すため、出番は決して多くなかったと記憶している。伊東はかぎられた出番の中で、自身の演じる添田花音に命を吹き込み、その過酷な役割をまっとうしなければならなかった。当時の彼女は10代半ば。あの時点ですでに替えの利かない俳優になりつつあったと思う。

『おかえりモネ』伊東蒼、目が離せない“異質感” 物語を動かす重要な役どころに?

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 2022年には『ガンニバル』(2022年/ディズニープラス)などの片山慎三監督による『さがす』で準主役のポジションを妙演。いや、あれは伊東が演じる原田楓という少女が行方不明になった父親を探す物語だったから、私たち観客にとっての実質の主演は伊東だったといえるかもしれない。翌年の2023年には、2度目のNHK大河ドラマ出演となった『どうする家康』にて、これまた主要な役どころを担っていた。伊東の出番はたしか2エピソードだけだったと記憶しているが、そのうちのひとつは彼女の主役回。主人公・徳川家康(松本潤)の命運を握る少女役を力演していたのを鮮明に覚えている。

 それと時を同じくして、主演映画『世界の終わりから』(2023年)が公開された。親を事故で失い、どこにも居場所を見出せないでいる女子高生・ハナが、世界を救うべく奔走する物語を描いた作品だ。彼女に託されたものはあまりにも大きくて重い。こうして伊東の演じてきたキャラクターを並べてみると、そのいずれもが過酷な環境下にあり、大変な運命を背負っていることが分かる。作風はコミカルなものだったが、新宿・歌舞伎町を舞台としたドラマ『新宿野戦病院』(2024年/フジテレビ系)で演じていた少女・マユもまたこの系譜に連なるものだったのではないだろうか。

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