『あんぱん』山寺宏一が体現した自由なる精神 自由と規律のはざまで揺れる嵩とのぶ

『あんぱん』山寺宏一が体現した自由なる精神

 『あんぱん』(NHK総合)第27話では、軍靴の響きが迫るなか、自由と規律のはざまで揺れる思いが描かれた。

 嵩(北村匠海)が東京へ行ってからは、高知にいるのぶ(今田美桜)と並行して二人の近況が描かれる。体育大会の貼り紙を目にしたのぶは出場を志願するが、黒井(瀧内公美)に「その辺の野原でも走ってなさい」と却下されてしまった。

 のぶは軍国主義の教育になじめずにいる。忠君愛国に染まったヒロインを見ずに済むので視聴者としてはひと安心だが、本人の心中は複雑だ。「女子師範学校の名誉」や「お国のため」、そう言えば認められるとわかっていても、その一言が出ない。正直なのぶは、思っていないことは口に出せないのだろう。

 昭和12年7月、ラジオは盧溝橋事件のニュースを報じた。泥沼化する日中戦争のはじまりである。黒井は銃後を守るのは女子の役目と言い、「女性教師はその規範となるべき」と訴える。一般人よりのぶたちの方が精神面の抑圧は強くて、いまは正気を保っているものの、のぶ自身、いつ屈してしまうかわからない。

 嵩は新しい生活に心躍る日々。同居人の健太郎(高橋文哉)は、デッサンの授業でヌードモデルに興奮する。嵩は辺見(三河悠冴)の才能に驚き、座間(山寺宏一)が歌う図案科の歌を聞いて想像力を羽ばたかせた。

 銀座のカフェで、座間や同級生と図案科の歌を歌う嵩たち。健太郎のギターの伴奏で、憂鬱を吹き飛ばすようにナンセンスなフレーズを合唱する。そこに水を差したのが軍人たちだ。眉をしかめてやめろと言うが、座間は従わずに歌い続ける。それが座間の信念に由来するものか、反骨精神かは不明だが、自由がどういうものかを嵩に伝えるには十分だった。

 なお「ワッサワッサワッサリン」で始まる図案科の歌は実在しており、やなせたかしの母校である東京高等工芸学校の学生歌が元ネタ。ただし、メロディーは本作のオリジナルとのことである。

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