興収で読む北米映画トレンド
日本公開未定『Sinners』、北米で『アバター』以来の快挙 監督「映画と劇場体験を信じる」

『ブラックパンサー』シリーズのライアン・クーグラー監督&マイケル・B・ジョーダン主演によるR指定ホラー映画『Sinners(原題)』の勢いが止まらない。公開2週目の本作は、週末の3日間で興行収入4500万ドルを記録し、再びランキングのNo.1に輝いた。
北米オープニング興行成績は4800万ドルだったから、なんと前週比マイナス6.3%という衝撃的なホールド力だ。これはホリデーシーズン以外に公開された映画では最も低い下げ幅で、初週4000万ドルの作品としては『アバター』(2009年)以来の快挙。言わずもがな、これは「ホラー」というジャンルにとどまらない大記録である。
現時点での北米興収は1億2250万ドル、海外71市場を含む世界興収は1億6162万ドル。製作費は9000万ドルだから、劇場公開での黒字化はほとんど確実となった。今年のワーナー・ブラザースはポン・ジュノやポール・トーマス・アンダーソンなど映画作家の新作を多数抱えているが、まさかこの作品がこれほどのヒットを飛ばすとは誰も想像しなかっただろう。

本作は1932年のミシシッピ州デルタを舞台に、ジョーダン演じる双子の兄弟がヴァンパイアと対峙するホラー映画。批評家・観客の支持はきわめて高く、Rotten Tomatoesでは批評家スコア98%・観客スコア97%、また出口調査に基づくCinemaScoreではホラー映画史上初の「A」評価を獲得していた。
予想外のスマッシュヒットは、こうした口コミによる観客層の拡大によるところが大きい。今週末は女性客が全体の半数以上にあたる56%に増加し、25歳未満の観客も前週末の20%から34%に急上昇。現在の映画界では「女性客と若者をいかにつかむか」がヒットのカギだが、『Sinners』はそれらの重要な客層にきちんと刺さっている。人種・民族的にもラテン・ヒスパニックやアジア系観客が増加し、より多様な観客が劇場に足を運んだ。
また、全編IMAXフィルムカメラで撮影された本作がきちんとIMAXシアターで観られていることも大きい。今週末、北米ではIMAX上映が1025万ドルを売り上げて週末興収4500万ドルの4分の1近くを占めた。また本作の北米興収全体では、IMAX上映の売り上げが20%を超えている。
監督・脚本のライアン・クーグラーは、週末に先がけて「心からの感謝」を表明するメッセージを公開していた。
この投稿をInstagramで見る
『Sinners』を観るため、チケットを購入してくださったすべての方々に感謝します。さまざまなフォーマットでこの映画を観てくれた方々に、ポップコーンとドリンクを買った方々に、ベビーシッターを手配したり、相乗りを使ったりしてくださった方々に、上映後にロビーで語り合い、友人を得た方々に。仕事のスケジュールを調整してくださった方々に、グループで映画を観てくださった方々に。
私は、自分の家族や先祖からインスピレーションを受けた映画を作るという幸運な機会に恵まれました。けれども当初から観客の皆さんのために、劇場で観てもらうために作ろうと決めていました。私たちの心には、いつも皆さんの存在がありました。映画にしかできない方法で楽しませ、心を動かす責任を深く感じていました。
私は映画(cinema)を信じています。劇場体験を信じています。社会に欠かせないものだと信じています。だからこそ、私と仲間たちはこの道に人生を捧げてきました。皆さんが劇場に来てくださらなければ、私たちはこの仕事を続けることができません。
世界中の観客のおかげで、私に夢を見て、キャリアを築き、家族とともに、より持続可能な人生を歩むことができました。私にできる唯一の感謝の方法は、これからも個人的な体験や人間関係から物語を掘り起こし、映画的な言語で皆さんに届けてゆくことです。この映画に対する皆さんの反応を目の当たりにして、この芸術形式を信じる、私を含む多くの人間が元気をもらうことができました。
現時点で『Sinners』の日本公開は未定。ワーナー・ブラザース ジャパンによる今後の発表に期待したい。