『新幹線大爆破』配役変更ならではの魅力 実は名作揃い(?)なリメイク作をまとめてみた

『新幹線大爆破』配役変更ならではの魅力

『シン・仮面ライダー』(2023年)~主人公の性格変更~

庵野秀明は“仮面ライダー”をいかに再構築したのか TV版と石ノ森章太郎の漫画版への深い愛 

庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』が公開された。1971年に放送されたTV版『仮面ライダー』への偏執的な愛とともに、強く打ち出さ…

 藤岡弘、の演じる本郷猛(仮面ライダー)は、快活な健康優良主人公である。快活に笑いながら、「かなわないなぁ、立花さんには!」とか言う。この時代の二枚目主人公は、必ず「かなわないなぁ、○○さんには!」と言う。必ず言う。元祖は誰なんだろう。加山雄三あたりだろうか。

 庵野秀明がリメイクした『シン・仮面ライダー』の本郷猛(池松壮亮)は、「かなわないなぁ、○○さんには!」とは言わない。時代の違いもあるが、そもそも快活ではないからだ。「頭脳明晰、スポーツ万能なれど、いわゆるコミュ障で無職」という珍しいキャラである。それだけのハイスペックなら、陽キャに成長していても良さそうなものだ。実はこれは幼少期のあるトラウマによるものである。また、池松壮亮は「コミュ障の若者」の役が日本一似合う俳優である。

 「本郷猛を勝手にコミュ障にしやがって」と思う向きもあるかもしれない。だが石ノ森章太郎が原作漫画で描くヒーローは、繊細で愁いを帯びたタイプが多い。『サイボーグ009』の島村ジョーしかり、『人造人間キカイダー』のジローしかり、『仮面ライダー』の本郷猛もしかりだ。本郷猛と言えば、どうしても藤岡弘、のイメージが強い。だが池松壮亮演じる繊細な本郷猛のほうが、石ノ森章太郎の世界観には近いのである。

 また、藤岡版ではあまり描かれなかったが原作では描かれていた要素として、「突然勝手に改造人間にされた男の苦悩」というものがある。原作では、軽く殴っただけで追手が死んでしまい、本郷猛が戸惑うシーンがある。本作でも、ごく普通のパンチでショッカーの戦闘員の頭がどんどん潰れていく。望みもしないのに“人外”になってしまった自分自身に、本郷猛は苦悩する。また、池松壮亮は「苦悩する若者」の役が日本一似合う俳優でもある。

 本郷猛が碇シンジのようであり、ヒロイン・緑川ルリ子(浜辺美波)は綾波レイのようでもある。好き嫌いは分かれるかもしれないが、個人的には大好きな作品だ。

『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(2008年)~主人公自体変更~

 樋口真嗣は、17年前にも過去の名作のリメイクを手掛けていた。1958年公開のオリジナル版『隠し砦の三悪人』は、黒澤明の名作エンタメ時代劇である。この時期の黒澤明が撮った時代劇は、本作以外にも『七人の侍』(1954年)、『用心棒』(1961年)、『椿三十郎』(1962年)など、どれも傑作揃いである。「エンタメ時代劇の教科書」と言ってもいい。

 この物語は、三船敏郎演じる侍大将・真壁六郎太が、たまたま巻き込まれた(無理やり巻き込んだ)農民2人・太平(千秋実)と又七(藤原釜足)の力を借りながら、姫様(上原美佐)を助け、お家再興を計るというストーリーである。本来、太平と又七はコメディリリーフであり、主人公はあくまで真壁六郎太だ。だが樋口真嗣は、このコメディリリーフのひとりを松本潤に演じさせることにより、主人公を交代してしまった。

 オリジナル版の姫様は徹頭徹尾毅然としており、演じる上原美佐のキリッとした風貌も相まって、実にカッコいい。女子校で後輩にモテるタイプである。一瞬もデレることはない。だがリメイク作の姫様(長澤まさみ)は、途中から松潤にデレデレである。相手が松潤では致し方ないが、つまり、途中からストーリーも大幅に変わる。本来コメディリリーフだった男が、大活躍する。

 正直に申し上げて、「黒澤明原理主義者」なら怒るかもしれない。だが「別物」と捉えれば、こちらも極めて面白いエンタメ時代劇だ。そして後半の展開にはなんか既視感があるなと思ったら、脚色が中島かずきだった。劇団☆新感線の座付き作家である。確かに後半の派手な展開は、「いのうえ歌舞伎」さながらであった。オリジナル版とリメイク版、両方を見比べてほしい。

 さて、これまでいくつかのリメイク作を振り返ったうえで、改めて『新幹線大爆破』の配役について考えよう。

 千葉真一とのんには、ひとつだけ共通点がある。それは、“目力”だ。若い頃の千葉真一の目は、力が強くて、でも子供のように曇りがなく、キラキラしていた。のんの目も、同じように強く、曇りなく輝いている。

 のんに、1,500人の命を託してみようと思う。

■配信情報
Netflix映画『新幹線大爆破』
Netflixにて配信中
主演:草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工
監督:樋口真嗣
脚本:中川和博、大庭功睦
原作:東映映画『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助/佐藤純彌、1975年作品)
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:石塚紘太 
ライン・プロデューサー:森賢正
准監督:尾上克郎
脚本:中川和博 大庭功睦
音楽:岩崎太整
撮影:一坪悠介 鈴木啓造
照明:浜田研一
録音:田中博信
美術:佐久嶋依里 加藤たく郎
スタイリスト:伊賀大介
編集:梅脇かおり 佐藤敦紀
アクション・コーディネイター:田渕景也
VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀
ポストプロダクションスーパーバイザー:上田倫人
Compositing Supervisor:白石哲也
特別協力:東日本旅客鉄道株式会社 株式会社ジェイアール東日本企画
制作プロダクション:エピスコープ株式会社
製作:Netflix

 

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