『名探偵コナン 隻眼の残像』“大人たち”の魅力に迫る 骨太ミステリとエンタメを見事に両立

『名探偵コナン 隻眼の残像』大人たちの魅力

 そんな大人なムードのある本作だからこそ、対照的に主人公であるコナンは劇場版シリーズ史上でも最も子供らしくキュートに描かれる。物語序盤から公安の風見刑事に盗聴されている状況によって、普段以上に子供らしい“ぶりっ子”を演じるコナンの姿は新鮮だ。特に普段は全幅の信頼を寄せているからこそ工藤新一モードで会話する灰原哀に対してもぶりっ子モードで話すコナンの姿は後にも先にも見ることが出来ない、本作ならではのコナンかもしれない。一方本作のコナンはしたたかで、ある種の狡猾さも感じさせる。盗聴されている状況を逆手に取って風見刑事に情報収集を指示する様は、安室透と風見の関係性とダブって映る。本作は普段以上にコナンの様々な表情を楽しめるのだ。

 こうした渋さやミステリー性を強化した作劇ということもあり、前作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』や前々作『名探偵コナン 黒鉄の魚影』と比べると地味な印象を抱きそうになるが、本作も『名探偵コナン』らしいエンターテインメント性はキチンと内包している。特に中盤における山中での銃撃戦や高明の救出、雪崩の発生は迫力満点。毎回恒例となっているオープニングでの人物紹介や阿笠博士のクイズタイムなど、幅広いファンが鑑賞する『名探偵コナン』らしい全方向にバランスを取った演出も健全。本作のオリジナルキャラクターである長谷部陸夫は原作にもフィードバックできそうなキャラクター。歴代シリーズ作品のセルフオマージュが随所に散りばめられている構成もコナンフリークにはたまらない。エンタメとしても十分な魅力のある作品だ。

 ここまで『隻眼の残像』の魅力を様々な角度から記してきたが、ここでは書ききれないほどまだまだたくさんの見どころに溢れている。公開初日の興行収入は10億円というシリーズ最高のロケットスタートを切った『隻眼の残像』。2度目、3度目と鑑賞すればさらなる発見もあるかもしれない。

■公開情報
劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』
全国東宝系にて公開中
キャスト:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、高田裕司、速水奨、小清水亜美ほか
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:http://www.conan-movie.jp

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