『TO BE HERO X』はなぜ国内外で評価が割れるのか? 分岐点にある“声優文化”の違い

『TO BE HERO X』の評価が割れる理由とは

 そんな本作で花江は、中心人物の一人であるヒーロー・ナイスを演じている。信頼度ランキング10位という微妙なポジションにいるナイスは、表向きはまさに“信頼されるヒーロー”そのもの。だが物語が進むにつれ、その裏にある多面的な人物像が少しずつ見えてきた。

 ナイスは、正統派のルックスと倫理観を備えたキャラクターでありながら、視聴者にはどこか整いすぎている印象を残している。花江は、『東京喰種トーキョーグール』の金木研、『ダイヤのA』の小湊春市、『ダンダダン』の高倉健(オカルン)といった役を通じて、表向きの穏やかさと内に秘めた複雑な情念を共存させる演技を見せてきた。『TO BE HERO X』の第1話でも、表向きの完璧なヒーロー像と、平凡な平社員としての姿の二面性を高い解像度で演じており、これぞ花江の真骨頂とも言えるキャラクターだった。

 花江の声は、どこまでも誠実で、真っ直ぐだ。だが同時に、その語りの中には、感情の奥行きや抑制のニュアンスが絶えず漂っている。これは、単純な“清廉なヒーロー”というだけではなく、信頼されることに対する葛藤やプレッシャーが、声のトーンそのものに織り込まれているからだろう。また、花江の演技に特徴的なのは、セリフの外にある余白の作り方だ。発語のタイミングや語尾の処理に繊細さが備わっており、観る者に「何かを考えている」「何かを抱えている」人物としてナイスを印象づける。こうした声による人物の揺らぎは、彼がこれまで数々の役で培ってきた技術であり、ナイスというキャラクターに確かなリアリティを与えてくれている。

 『TO BE HERO X』は“信頼”を可視化する物語であり、ナイスというキャラクター自身もまた、視聴者の信頼を獲得できるかが問われている。その鍵を握るのが、花江夏樹の声の力であることは間違いない。物語が進行し、ナイスの過去や葛藤が明らかになるにつれ、花江の演技もまた、より複雑な情感を求められるだろう。そのとき、ようやく花江夏樹のナイスという存在が、本格的に評価されはじめるのかもしれない。

 国内外で異なる尺度の中に置かれているこの作品において、花江夏樹の演技が、言語も文化も超えて“信頼に足るヒーロー”として視聴者の記憶に残るのか。その答えは、これからの展開に託されている。

■放送情報
『TO BE HERO X』
フジテレビ系にて、毎週日曜9:30~放送
出演:宮野真守(X役)、花澤香菜(クイーン役)、内山昂輝(梁龍役)、中村悠一(黙殺役)、松岡禎丞(リトルジョニー役)、佐倉綾音(ロリ役)、水瀬いのり(ラッキーシアン役)、山寺宏一(トラ役)、島﨑信長(魂電役)、花江夏樹(ナイス役)
原作・監督:Haolin(リ・ハオリン)
オープニングテーマ:「INERTIA」SawanoHiroyuki[nZk]:Rei
エンディングテーマ:「KONTINUUM」SennaRin
メインテーマ:澤野弘之「JEOPARDY」
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO、ケンモチヒデフミ、DAIKI (AWSM.)、睦月周平、深澤秀行、馬瀬みさき、髙田龍一(MONACA)
制作:BeDream
製作:bilibili & BeDream, Aniplex
©bilibili/BeDream, Aniplex
公式サイト:https://tbhx.net/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/tbhx_officialJP

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる