『HERE 時を越えて』“普通のひとの人生”になぜグッと来るのか “壁目線”好き必見の挑戦作

そんな本作において、人間の主人公と呼べる存在がリチャード(トム・ハンクス)とマーガレット(ロビン・ライト)だ。1945年にこの家を買った第二次世界大戦帰りのアル(ポール・ベタニー)と妻のローズ(ケリー・ライリー)の間に生まれたリチャードは、高校時代にマーガレットと出会い、恋に落ち、そして結婚して家族になる。彼が初めて彼女を家に連れてきた日、暖炉の前で結婚式を開いた日、子どもを授かり夢を諦めた日、50歳の誕生日、そして老いていく姿を、我々観客は観続ける。それは、あまりにも普通な人生で、“映画的な物語”ではないかもしれない。しかし、この作品を観ていた約100分の間に私の中にもリチャードやマーガレット、この家で暮らした人々、そしてこの家に思い出が積み重なり、ラストは思わず胸に込み上げるものがあった。

ちなみに私は、メインキャラクターではないものの、アルとローズの前にこの家に約20年間住んでいた、レオとステラというアーティスティックなカップルが強く印象に残っている。個性的な家具に囲まれ、彼女は踊りながら掃除をし、彼はとある発明に打ち込む。この2人が暮らしていた時間が、作品を通してこの家が一番明るく見え、話をしたことがないどころか、ろくに素性も知らないものの、日々を楽しそうに暮らす彼らが眩しくて好きになった。この作品を観たら、きっとこの家で暮らした誰かが気になると思う。

その意味においても、本作は、“鑑賞”より“体験”という言葉の方がしっくり来るかもしれない。おそらく人によって「合う」「合わない」が分かれるだろう。きっと、昔の家や建物を見て、そこで生活していた人々への浪漫や想いを馳せられる方は「合う」。そんな余白を楽しめる方におすすめしたい1作だ。このコラムを読んでくれたあなたは、どの時代の誰に感情移入をして、誰を好きになるのだろうか。
参照
https://here-movie.jp/#intro
■公開情報
『HERE 時を越えて』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:トム・ハンクス、ロビン・ライト、ポール・ベタニー、ケリー・ライリー、ミシェル・ドッカリー
監督:ロバート・ゼメキス
原作:リチャード・マグワイア
脚本:エリック・ロス&ロバート・ゼメキス
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
2024年/アメリカ/英語/104分/カラー/5.1ch/ビスタ/原題:Here/字幕翻訳:チオキ真理/G
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公式サイト:here-movie.jp
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