『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』が最高のエンタメ映画である理由 チョン・ヘインの狂気も必見

『ベテラン』続編が最高のエンタメ作品な理由

 このお馴染みの面々の中に新たに加わったのが、『ソウルの春』(2023年)で知られるチョン・ヘインだ。チョン・ヘイン演じる交番警官パク・ソヌは、端正なルックスとは裏腹に武闘派として知られ、ネット上では“UFC警官”と呼ばれている。その能力をドチョルに買われたソヌは、チームの一員として「ヘチ」捜査に参加する。

 ただ、このソヌも一筋縄ではいかない人物であり、彼を語るうえで欠かせない要素が、「悪」に対する異常な執着心だ。ひとたび悪とみなしたものに対しては、目を爛々と輝かせ、ためらうことなく拳を振り上げる。ドチョルを「兄貴」と慕い、彼の後ろを付いて回る様子は健気でかわいらしいが、その苛烈さはどこへ向かうのか。

 そしてこの「ヘチ」事件のほかにも、ドチョルが直面する問題がある。引きこもりの息子だ。「殴られたら殴り返せ」「売られた喧嘩は買え」という、およそ公権力側の人間とは思えない教育方針をとっていたドチョルだったが、そんな彼の息子はというと、いじめの被害に遭い、部屋にこもりきりに。毛布にくるまってスマホを凝視しているばかりで、父親との対話も拒絶している。

 彼が夢中になっているのは、「正義先生」なる人物の生配信だ。伝わるだろうか。この名前だけでもわかる胡散臭さが。「正義先生」は「ヘチ」を英雄に仕立て上げ、国家や法に対する不信感を煽る。チャット欄では悪人を殺すべきか投票が行われ、人々の「正義中毒」を刺激する。そして「真実」を伝える彼を讃えるべく投げ銭が飛び交う。

 世間を賑わすダークヒーローや大衆感情を煽り立てるインフルエンサー、そして「正義中毒」に陥る人々の存在は、我々が生きる現代社会を想起させ、暗澹たる気持ちを呼び起こす。だが、そんなテーマをも軽妙なユーモアやド迫力のアクションを以てエンターテインメントに仕立て上げるスンワン監督の手腕には舌を巻く。

 果たして、「ヘチ」は何者なのか。そして、ドチョルは息子を取り巻く問題を解決し、彼とのわだかまりを解消することができるのか。ソヌの苛烈な正義の行く先や、広域捜査隊のメンバーが世間をも味方につけたダークヒーローに立ち向かう姿をぜひ劇場で見届けてほしい。

■公開情報
『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』 
新宿ピカデリーほかにて公開中
出演:ファン・ジョンミン、チョン・へイン、アン・ボヒョン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、シン・スンファ
監督:リュ・スンワン
脚本:リュ・スンワン、イ・ウォンジェ、カン・ヘジョン
提供:KADOKAWA Kプラス、MOVIE WALKER PRESS KOREA
配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
118分/英題:I, The Executioner
©2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:veteran-movie.com
公式X(旧Twitter):https://x.com/veteran_movie

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