劇中歌から紐解く『グレイテスト・ショーマン』 なぜ時代背景に合わないポップスを使用した?

楽曲から紐解く『グレイテスト・ショーマン』

 ゆえに劇中のどのナンバーにおいても、ロックやバラード、力強いアンセムから美しいデュエットまで、現代人の耳になじむポップスで統一されている。とりわけ「共感」感情を揺さぶるナンバーといえば、キアラ・セトル演じるレティが歌う「This Is Me」だろう。「ケイティ・ペリーやケリー・クラークソン、ピンクといった、パワーと権威のある女性たちが歌っていそうなものだ」とポールが語る通り、のけ者にされた者たちが気高い魂を鼓舞させ自分自身を励ますエンパワメントソングともいえるこの曲は、まさにクリエイター側の意図を最も強く表明している1曲といえるだろう。

The Greatest Showman | This Is Me (Official Lyric Video)

 まばゆいほどのスポットライトを浴びても「けっして物足りない、満足できない」と歌う「Never Enough」は、婚外子で生まれ愛を受けずに育った歌姫・リンド(レベッカ・ファーガソン)がバーナム(ヒュー・ジャックマン)の前で披露する曲だ。圧倒的な歌声に、バーナムの心は揺らぐ。心情を吐露しているともいえるこの曲は、彼女でないと「完璧」には歌えない。グレイシーが言うところの「ジレンマ」を表した、限りなく個人的でありながらも同時に「どこか物足りない人生」を送る聴衆にも共感を呼び起こす曲だからだ。

The Greatest Showman | Never Enough (Official Lyric Video)

 バーナムの妻であるチャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)は、リンドに心が傾いてしまった夫との関係を「綱渡り」=「Tightrope」で歌い上げる。リンドとチャリティ、ふたりの女性が同一構図のシークエンスで描かれるシーンでは、歌い始めこそしめやかだが、次第に葛藤が感じられる様相に変わっていく。妻としてひとりの人間として、そこにチャリティ・バーナムが生きているのだと感じさせる歌声は、時代の古さを感じさせず観る者に訴えかける強さを持って響きわたる。

 なぜ本作のナンバーたちが繰り返し聴かれ、愛されるのか。それはきっと、ミュージカル映画を好きな理由としてグレイシーが挙げたように、「歌」は「言葉」を超えて届くからなのだと感じる。誰もが等しく葛藤やジレンマを経験する「人間」であり、私たち観客とバーナムたちの間に隔たりはない。苦しみの先に爆発的な人生の歓びがあることを、映画『グレイテスト・ショーマン』の音楽は伝えようとしているのだ。

参照
https://wmg.jp/greatest-showman/news/82787/

■放送情報
『グレイテスト・ショーマン』
日本テレビ系にて、3月28日(金)21:00〜23:04放送
※放送枠10分拡大
※地上波初放送・本編ノーカット
監督:マイケル・グレイシー
脚本:ジェニー・ビックス、ビル・コンドン
ストーリー:ジェニー・ビックス
製作:ローレンス・マーク, p.g.a.、ピーター・チャーニン, p.g.a.、ジェンノ・トッピング, p.g.a
製作総指揮:ジェームズ・マンゴールド、ドナルド・J・リー・ジュニア、トニア・デイヴィス
音楽:ジョン・デブニー&ジョゼフ・トラパニーズ
楽曲:ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール
出演:ヒュー・ジャックマン(山路和弘)、ザック・エフロン(木村昴)、ミシェル・ウィリアムズ(中村千絵)、レベッカ・ファーガソン(北西純子)、ゼンデイヤ(真壁かずみ)、キアラ・セトル(日野由利加)
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

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