『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』が担う教育的側面 芸術を愛する精神が育まれる傑作

『映画ドラえもん』最新作が担う教育的側面

 ラストシーンにも触れておきたい。アートリア公国は救われ、国王や国民は助かるものの、絵の中の人物であるクレアや、クレアと共に現れた小さな悪魔・チャイは消滅してしまう。この悲しい展開は、同時に「芸術がなぜ存在するのか」という根源的な問いを浮かび上がらせる。劇中ではアートリア公国が現代に知られることはなく、13世紀に生きたクレアたちも後世にはすでに亡くなっており、またドラえもんたちの活躍も伝わらずに終わってしまう。しかし絵画というアート作品として残されたことで、その想いや感動は後世の人々にも共有される。芸術が生きた証となり、失われた歴史や想いを受け継ぐ手段であることが、本作では強調されているのだ。

 同時に、本作からは「『ドラえもん』映画とは何か」という作り手の矜持も感じられる。クレアとチャイの消滅で、悲嘆に暮れる国王や民たちのもとへ、タイムマシンの時空で迷子になっていたクレアが帰ってくるという展開がある。ここで、「クレアがいなくなっていても、思い出は絵の中に存在している」という締めくくりも可能だったはずだが、物語はあえてクレアが戻ってくる結末を選択した。この流れはやや強引にも感じられるが、劇場に足を運んだ子どもたちを笑顔で帰らせたいという、『ドラえもん』映画シリーズを制作するうえでの強い想いが伝わってくる。

『のび太の絵世界物語』は“ドラえもん愛”あふれる傑作だ よみがえった“藤子・F・不二雄感”

2024年は藤子・F・不二雄の生誕90周年イヤーであり、2025年は『映画ドラえもん』シリーズの45周年。長く続く作品ともなれば…

 本作は手描きのアニメーション表現と、美術史を下敷きにした独特の世界観で絵の魅力を再発見しながらも、同時に『ドラえもん』映画らしい優しさと冒険を融合させることで、映画シリーズの新たな地平を切り拓いた。歴史に埋もれた絵画が、ドラえもんたちの冒険によって再び息を吹き返す様子は、まさしく芸術の力そのものだ。またクライマックスの結末に込められたメッセージによって、観客の子どもたちの心に暖かな余韻と芸術を愛する精神を育みながら、笑顔で家路に着くことができる。まさに『ドラえもん』映画の魅力が詰まった見事な傑作といえるだろう。

参照
https://irohani.art/study/9255/

■公開情報
全国公開中
『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』
キャスト:水田わさび(ドラえもん役)、大原めぐみ(のび太役)、かかずゆみ(しずか役)、木村昴(ジャイアン役)、関智一(スネ夫役)、和多田美咲(クレア役)、種﨑敦美(マイロ役)、久野美咲(チャイ役)、鈴鹿央士(パル役)、藤本美貴(アートリア王妃役)、伊達みきお(サンドウィッチマン)(アートリア王役)、富澤たけし(サンドウィッチマン)(評論家役)
原作:藤子・F・不二雄
監督:寺本幸代
脚本:伊藤公志
主題歌:あいみょん「スケッチ」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN) 
挿入歌:あいみょん「君の夢を聞きながら、僕は笑えるアイデアを!」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
配給:東宝
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2025
公式サイト: https://doraeiga.com/2025/
公式YouTubeチャンネル: https://www.youtube.com/user/DoraemonTheMovie
公式X(旧Twitter): https://x.com/doraeiga

 

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