『秘密』“青木”中島裕翔が断ち切った復讐の連鎖 救うべきかけがえのない存在を問う

『秘密』中島裕翔が断ち切った復讐の連鎖

「なぜ犯人はわざわざ身代わりを用意してまで、あなたのお嬢さんの格好をさせたとお考えですか?」

 第7話で薪が千堂に向けて放った言葉だ。淡路の狙いは千堂への復讐。国に見捨てられて死んだ我が子の復讐は、千堂に同じ思いをさせることだ。それは、我が子を見捨てられる絶望である。しかし、それだけではなかった。千堂自身も知らない秘密をつかんだ淡路は、千堂自身の手で実の娘を殺させようとした。地獄の苦しみを味わわせるために。

 淡路の計画は考え抜かれた用意周到なもので、悪意をたたえた悪魔の所業のような行為である。しかし、冷静に考えると別の側面が見える。淡路は千堂にチャンスを与えていた。もし千堂が悔い改めて変わったのなら、たった一人の国民でも救おうとするだろう。その場合、娘の望美は助かる。また千堂が真実を知らずに済んだのは、妻(霧島れいか)と望美の母が、これまでずっと本当のことを黙っていたからだ。千堂の立場と家庭の幸福は、女性の沈黙によって保たれていたにすぎない。淡路はそれらの事実を知って利用しただけだ。

 青木の勇気ある行動によって、千堂は娘を自分の判断で死なせるという一生続く後悔をせずに済んだ。青木は、苦しんでいるのは誰かにとっての大事な人だと考え、そう考えることで復讐の連鎖を断ち切った。千堂は苦しんでいる人間は自分とは関係のない他人だと思っていただろう。そう考えるのは仕方ない面もあるが、問題があるとしたら、千堂が、自分自身のことを大切に思っている人がいると気づけなかったことである。元交際相手と実の娘を前にして、体面を気にして言葉をなくす千堂はかえすがえすも残念である。

 ドラマ版『秘密』は、原作にある少女漫画特有の表情の陰影や彫琢、瞳に宿る感情のプリズムを的確に写し取っている。その繊細さとトーンの再現具合は、数ある実写化作品の中でも抜きん出ている。原作の読者がドラマを観て、あるいは視聴者がコミックスを読んで感じるのは双方の世界観の一致であり、細かい部分で改変が加えられているが、それさえも必然性が感じられる。ドラマで興味を持たれた方はぜひ通読をお勧めする。

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秘密~THE TOP SECRET~

人気漫画『秘密-トップ・シークレット-』を実写ドラマ化するヒューマンサスペンス。科学警察研究所の法医第九研究室、通称“第九”を舞台に、室長の薪剛と新米捜査員の青木一行のバディが、解決不可能とされていた事件の真相を解き明かしていく。

■放送情報
『秘密~THE TOP SECRET~』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~22:54放送
出演:板垣李光人、中島裕翔、門脇麦、高橋努、鳴海唯、利重剛、眞島秀和、國村隼ほか
原作:清水玲子『秘密-トップ・シークレット-』『秘密 season0』(白泉社『メロディ』連載)
脚本:佐藤嗣麻子
演出:松本佳奈、宝来忠昭、根本和政、稲留武
プロデューサー:豊福陽子、近藤匡、近藤多聞
音楽:小島裕規“Yaffle”
主題歌:「Iris」BUDDiiS(SDR inc.)
制作協力:C&Iエンタテインメント
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/top-secret/
公式X(旧Twitter):https://x.com/himitsu_ktv
公式Instagram:https://www.instagram.com/himitsu_ktv/
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