『東京サラダボウル』は“東京の今”を反映した作品だった 実写で描く“本物”の多人種社会

“東京の今”を反映した『東京サラダボウル』

外国人との共生のリアル

 本作が描くものは、今後の日本社会を考える上で非常に重要だ。作中、ベトナム語通訳の今井(武田玲奈)は、介護施設で技能実習生のベトナム人青年が盗みの冤罪をかけられそうになった事件の取り調べに立ち会った際、差別的な発言をする関係者に対して、「働かせてやってるんじゃない、私たちが彼らにはたらいてもらっているんです。すでに彼らの力がないとこの社会は成り立たないんです」という趣旨の発言をする。

 日本は人口減少時代に突入しており、一向に少子化は解決されない。今後も人口は減り続けるだろう。社会を維持するために外国人の力は、これからますます重要性を増すようになっていく。「外国人と共生したいか、したくないか」ではなく、「共生せねばならない」のがこれからの日本だ。

 しかし、日本社会全体は制度的にも気持ちの上でも、共生時代に対する用意ができているとは言い難い。人間はよく知らないものや自分とは異なるものには、本能的に警戒心を抱くものだ。言葉が通じないかもしれない、生活習慣が違いすぎて理解できないかもしれないと不安になる気持ちも当然あるだろう。しかし、互いに同じ人間なので、違いもあるが共通点もたくさんあるものだ。前述した技能実習生のベトナム人は同じ施設で働く日本人の青年と、積極的に共通点を見つけようとしていた。日本人の青年は「進(すすむ)」という名前で、ベトナム人の方は「ティエン」という。ティエンは漢字で書くと「進」と書くそうだ。深く話していくうちにそういう共通点を見つけて、人は親しくなっていくものだと思う。

 そういう意味で、東京に生きる外国人たちの生活をつぶさに描く本作は、自分たちとの共通点を見つけて、彼らを身近に感じさせることができる部分がある。外国人はステレオタイプに一括りにされがちだが、本作はそれぞれに個別に人生がある存在として立体的に捉えている。それは原作の美徳を受け継いでいるわけだが、実写化によってそれはさらにリアルに肉付けされたように思う。

 また、多くの異国情緒あふれるグルメがたくさん登場する点も本作を面白いものにしている。このドラマを観ていると、ベトナムのバインミーや韓国のお菓子やスリランカのカレーを食べてみたくなる。そして、それらは東京であれば、気軽に食べに行けるのだ。彼ら外国人のおかげで東京の食文化がより豊かになっていることも教えてくれる良作だ。

■放送情報
ドラマ10『東京サラダボウル』(全9回)
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
NHK BSP4Kにて、毎週火曜18:15〜19:00放送
再放送:NHK総合にて、毎週木曜24:35〜25:20放送
出演:奈緒、松田龍平、中村蒼、武田玲奈、中川大輔、絃瀬聡一、ノムラフッソ、関口メンディー、朝井大智、張翰、許莉廷、喬湲媛、Nguyen Truong Khang、阿部進之介、平原テツ、イモトアヤコ、皆川猿時、三上博史
原作:黒丸『東京サラダボウルー国際捜査事件簿―』
脚本:金沢知樹
音楽:王舟
メインテーマ曲:Balming Tiger
メインビジュアル・デザイン:大島依提亜
メインビジュアル・スチール撮影:垂水佳菜
演出:津田温子(NHKエンタープライズ)、川井隼人、水元泰嗣
制作統括:家冨未央(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)
プロデューサー:中川聡子
写真提供=NHK

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