『ファーストキス 1ST KISS』『片思い世界』に刻まれる坂元裕二の新たな“挑戦”

坂元裕二の新たな“挑戦”を読み解く

 「もっと強いストーリーを作らないといけないと思いました」――あるインタビューの中で、坂元裕二は、こんなことを語っている。

「今の日本の映像業界はアニメ作品に支えられて成立していますよね。実写作品はアニメが描いてるものからに逃げずに、ちゃんと向き合うことを意識して作らないといけないんじゃないかって思ったんですよね。多くのアニメには目的意識の強い設定と物語があって、実写もそこを明確にしないと、アニメと向き合うことにならない。『静かな日常を描くものではなく、世界に抗う物語でなければいけない』と」(『片思い世界』公式プレスより)

 「目的意識の強い設定と物語」、そして「世界に抗う」主人公(たち)。これまでの坂元作品とは少々異なるけれど、『ファーストキス』は、まさしくそういう映画だった。しかし、本当に驚くべきは、この発言が、本作に関することではなく、4月4日に公開される映画『片思い世界』に関するインタビューでの発言であるということだ。公開はあとになったけれど、時系列的には『ファーストキス』に先行して着想、企画がスタートしたという『片思い世界』。企画・プロデュース:山田謙司、配給:東宝ということで、カンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いた映画『怪物』(2023年)の流れを汲む『ファーストキス』に対して、配給:テアトル東京、リトルモア、監督:土井裕泰という布陣で臨む『片思い世界』は、同座組でロングヒットを記録した映画『花束みたいな恋をした』の流れを汲む作品と言えるだろう。

『片思い世界』©︎2025『片思い世界』製作委員会

 『花束みたいな恋をした』で、久しぶりに長編映画のオリジナル脚本を書き下ろし、これまでのドラマ作品とは違う層にリーチしたという確かな手応えを得たであろう坂元裕二が、「映画」という場所で戦うために、改めて意識し覚悟を決めたこと。それが「アニメ作品と向き合うこと」だったのではないか。それは『ファーストキス』も同様なのだろう(「タイムトラベル」を繰り返すという設定は、いかにもアニメ的ではある)。けれども出来上がった作品がアニメ的であるかというと、役者たちの魅力も相まって……これがまさしく、坂元裕二でしかあり得ない作品に仕上がっているのだ。ダイナミックな「動き」ではなく、スタティックな「言葉」で、観る者の心を激しく揺り動かすこと。ちなみに、広瀬すず、杉咲花、清原果耶という「朝ドラ女優」3人を擁した『片思い世界』は、『ファーストキス』以上に大胆な仕掛けが施された、実に驚くべき作品となっている。『ファーストキス』と『片思い世界』――今年立て続けに公開されることになったこの2つの作品によって、間違いなく新たな領域へと足を踏み出したように思える坂元裕二。その「挑戦」を大いに支持したい。

■公開情報
『ファーストキス 1ST KISS』
全国公開中
出演:松たか子、松村北斗、リリー・フランキー、吉岡里帆、森七菜、YOU、竹原ピストル、松田大輔、和田雅成、鈴木慶一、神野三鈴
脚本:坂元裕二
監督:塚原あゆ子
企画・プロデュース:山田兼司
制作プロダクション:AOI.pro
配給:東宝
©2025「1ST KISS」製作委員会
公式サイト:https://1stkiss-movie.toho.co.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/1STKISSmovie
公式Instagram:https://www.instagram.com/1stkissmovie/
硯カンナの備忘録Instagram:https://www.instagram.com/kaki_to_peanut/

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる