アカデミー賞の“受賞予想”はどう行われるのか? 試金石となる前哨戦とサプライズを解説

ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞
映画の普及促進活動をしているNGO組織、ナショナル・ボード・オブ・レビューが授与する賞。賞を授与し始めたのは1929年とかなり歴史が深い。第1回アカデミー賞が1929年なので、アカデミー賞と同い年である。有力な前哨戦の中でも発表時期が特に早い。2024年度の主要部門は下記結果だった。
・作品賞
『ウィキッド ふたりの魔女』
・監督賞
ジョン・M・チュウ(『ウィキッド ふたりの魔女』)
・主演男優賞
ダニエル・クレイグ(『Queer(原題)』)
・主演女優賞
ニコール・キッドマン(『ベイビーガール』)
『ウィキッド ふたりの魔女』はアカデミー賞でも作品賞を含む10部門で候補になっている。
トロント国際映画祭
カナダ最大の都市、トロントで毎年開催される映画祭。特徴的なこととして、ノンコンペであり最高賞に相当するのは観客投票で決まる観客賞(ピープルズ・チョイス・アウォード)である。万人受けする作品が好まれる傾向にあるため、結果として観客賞の受賞作はアカデミー賞でも主要部門を争う場合が多い。少数の審査員でコンペティション部門の結果を決めるカンヌ、ベルリン、ヴェネチアとは対極にあるような映画賞である。2024年から観客賞に加え、Runner-up(2位と3位)が発表されるようになった。
2024年の結果は下記の通り。
・観客賞
『The Life of Chuck(原題)』
・Runner-up
『エミリア・ペレス』
『ANORA アノーラ』
『The Life of Chuck』(2024年)は候補に入らなかったが、『エミリア・ペレス』は作品賞を含む12部門13候補、『ANORA アノーラ』は作品賞を含む6部門でアカデミー賞候補に入っている。
ゴールデングローブ賞
ハリウッド外国人映画記者協会が選出する賞。1944年に創設された。テレビドラマの部門もあり、アメリカのTVシリーズでありながら劇中言語の大部分が日本語の『SHOGUN 将軍』(2024年)が主要部門をほぼ独占したことはわが国でも大々的に報じられた。アカデミー賞との一致率が特に高く、現時点でゴールデングローブ賞の作品賞候補に入らずアカデミー賞の作品賞を受賞した作品は『スティング』(1973年)と『クラッシュ』(2004年)の2作品しかない。
映画は作品、主演男優、主演女優がドラマ部門とミュージカル/コメディ部門に分かれている。アカデミー賞は賞傾向として、シリアスドラマとミュージカルが強く、コメディやアクションなどの娯楽色の強い作品は好まれない。ミュージカル/コメディ部門の演技賞を受賞しながら、アカデミー賞では候補入りすらできなかった例は少なくない。『フォー・ウェディング』(1994年)でミュージカル/コメディ部門の主演男優賞を受賞したヒュー・グラント、『マン・オン・ザ・ムーン』(1999年)でミュージカル/コメディ部門の主演男優賞を受賞したジム・キャリーはいまだにアカデミー賞の候補経験すらない。ヒュー・グラントは『異端者の家』(2024年)で今年もミュージカル/コメディ部門の主演男優賞候補になったが、アカデミー賞では候補入りしていない。この2人に共通しているのはコメディ俳優のイメージが強いことである。
2024年度の主要部門受賞結果は下記の通り。
・作品賞(ドラマ部門)
『ブルータリスト』
・作品賞(ミュージカル/コメディ部門)
『エミリア・ペレス』
・監督賞
ブラディ・コーベット(『ブルータリスト』)
・主演男優賞(ドラマ部門)
エイドリアン・ブロディ(『ブルータリスト』)
・主演女優賞(ドラマ部門)
フェルナンダ・トーレス(『I’m Still Here』)
・主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)
セバスチャン・スタン(『A Different Man(原題)』)
・主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)
デミ・ムーア(『サブスタンス』)
第82回ゴールデングローブ賞受賞結果発表 テレビ部門で『SHOGUN 将軍』が4冠の快挙
第82回ゴールデングローブ賞の授賞式が、1月5日(米現地時間)に米ロサンゼルス・ビバリーヒルズで開催された。 映画部門はアカ…『A Different Man』(2024年)以外はすべてアカデミー賞でも候補入りしている。セバスチャン・スタンは別作品の『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』(2024年)で主演男優賞候補に入ったため、人物単位での一致率は100%である。『I’m Still Here』はフェルナンダ・トーレスのゴールデングローブ賞受賞が影響したのか、アカデミー賞ではサプライズの作品賞候補入りを果たした。アカデミー賞との相性の良さがわかる結果である。
サテライト賞
芸能ジャーナリストが所属する団体「国際プレス・アカデミー」(IPA)が主催する映画賞。1997年創設でまだ歴史は浅いが、重要なアカデミー賞前哨戦とみなされている。ゴールデングローブ賞と同じく、映画は作品、主演男優、主演女優がドラマ部門とミュージカル/コメディ部門に分かれている。2024年度の結果は下記の通り。
・作品賞(ドラマ部門)
『ブルータリスト』
・作品賞(ミュージカル/コメディ部門)
『ANORA アノーラ』
・監督賞(共通部門)
ブラディ・コーベット(『ブルータリスト』)
・主演男優賞(ドラマ部門)
コールマン・ドミンゴ(『シンシン/SING SING』)
・主演女優賞(ドラマ部門)
フェルナンダ・トーレス(『I’m Still Here』)
・主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)
キース・カプファラー(『Ghostlight(原題)』)
・主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)
デミ・ムーア(『サブスタンス』)
主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)のキース・カプファラー(『Ghostlight』)以外はアカデミー賞でも候補入りしている。やはりアカデミー賞はコメディに冷たい。アカデミー賞との相性の良さがわかる結果ではある。
クリティクス・チョイス・アワード
北米最大の批評家協会、クリティクス・チョイス・アソシエーションによる賞。創設は1996年で、まだ歴史は浅いがアカデミー賞との一致率はかなり高い。2019年まで放送映画批評家協会(ブロードキャスト映画批評家協会)が開催していたため、ブロードキャスト映画批評家協会賞と呼ばれていた。
受賞結果は下記の通り。
・作品賞
『ANORA アノーラ』
・監督賞
ジョン・M・チュウ(『ウィキッド ふたりの魔女』)
・主演男優賞(ドラマ部門)
エイドリアン・ブロディ(『ブルータリスト』)
・主演女優賞
デミ・ムーア(『サブスタンス』)
受賞者は全員、アカデミー賞でも候補入りしている。賞傾向が似ていることがよくわかる。
組合賞
アメリカの映画界で活躍するプロデューサー、演出家、脚本家、俳優、技術者は組合(ギルド)に加入している。組合の加入者はアカデミー会員と層が重なっており、組合賞の投票権保有者はアカデミー会員を兼ねている場合が多い。主要部門だとアメリカ製作者組合賞は作品賞、アメリカ監督組合賞は監督賞、アメリカ映画俳優組合賞は各演技部門に相当する。アメリカ映画俳優組合賞のアンサンブル演技(キャスト)部門は、キャスティングの作品賞とも言える賞である。
アメリカ製作者組合賞、アメリカ監督組合賞が発表済みで、受賞結果は下記の通り。
・作品賞(アメリカ製作者組合賞)
『ANORA アノーラ』
・監督賞(アメリカ監督組合賞)
ショーン・ベイカー(『ANORA アノーラ』)
こちらも双方ともアカデミー賞でも候補入りしている。
英国アカデミー賞(BAFTA賞)
イギリスの映画産業従事者らの団体、BAFTAが授与する賞。イギリス映画界とアメリカ映画界は境目がかなりあいまいで、人材も資本も両国間は行き来が多い。アルフォンソ・キュアロンが監督賞を受賞した『ゼロ・グラビティ』(2013年)は英語作品で、監督・脚本のアルフォンソ・キュアロンはメキシコ人、出演者は全員アメリカ人だが、イギリス資本が入っている、同作は英国アカデミー賞では作品賞とイギリス映画のみが対象となる英国作品賞の両方で候補になり、後者を受賞している。
イギリス人のアカデミー会員はBAFTAの会員を兼ねている場合が多く、アカデミー賞では彼らイギリス人会員の後押しが最後に効いてくる場合がある。『裏切りのサーカス』(2011年)で滑り込みでアカデミー賞候補になったゲイリー・オールドマンは、他の主要な前哨戦で芳しい結果でなく、候補入りは英国アカデミー賞とサテライト賞のみだった。BAFTA会員の後押しが最後に効いたと考えられる。
結果は2月16日発表予定。





















