映画『先輩はおとこのこ』は記号化されない性を描く デフォルメ作画アニメの到達点

『先輩はおとこのこ』デフォルメ作画の達成

『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』の結末から受け取れること

 さて、先述した咲が「目元を伏せるシーン」は『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』のハイライトの一つである。諸事情で両親と離れて暮らしていた咲が、家族と向き合うなかで重要な部分を担うシーンだ(詳細は伏せる)。

 劇場版で咲に突きつけられるのは「父と暮らすのか」「母と暮らすのか」という問いである。極めて慎重に人間関係の記号化を避けてきた『ぱいのこ』だが、劇場版において不可避の二元論に直面する。父/母という「家族」には不可欠な二項対立だ。

 「あいまいな人間関係をあいまいなままにしておく」慎重さを構築してきた本作が突きつける、不可避の二者択一である。

 したがってアニメ版終盤で咲の母親との関係がほのめかされたように、劇場版では父親との関係も焦点になるだろう。

 クジラ研究家である父と過ごすなかで咲は、海中のクジラと実際に遭遇する。極めて(SDタッチとは程遠い)写実的に描かれたそのクジラは、咲にとってそれがどれほど畏怖の対象であるか、そして父親との距離感がどれほどであるかを比喩しているかのようだ。

 こうしたなかで咲は何を選び取るのか。そしてタイトルにある「先輩は『おとこのこ』」が「後輩」目線の断言であることをどう捉えるべきなのか。今回の映画化で問われうるのはそのようなことである。

■公開情報
『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』
全国公開中
キャスト:花岡まこと(梅田修一朗)、蒼井咲(関根明良)、大我竜二(内田雄馬)、早瀬藍(加隈亜衣)、羽川楓(葵あずさ)、早乙女純(梶原岳人)、谷知佳奈子(和久野愛佳)、吉田美代(早瀬雪未)、川崎英一郎(田中正彦)、蒼井雅子(さとうあい)、蒼井裕司(村井雄治)、石川千尋(いしかわひとみ)、本郷博(宮田俊哉)
原作:『先輩はおとこのこ』ぽむ(「LINE マンガ」連載)
監督:柳伸亮
シリーズ構成:冨田頼子
キャラクターデザイン:新海翔斗
プロップデザイン:北山景子
美術監督:安田ゆかり(オリーブ)
美術設定:秋山健太郎(スタジオ Pablo)
色彩設計:鈴木ようこ
撮影監督:上條智也
編集:新沼奈美(グラフィニカ)
3D/CG:齋藤威志(WIRED)
音響監督:本山哲
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
音楽:橋本由香利
アニメーション制作:project No.9
配給:アニプレックス
©pom・JOYNET/LINE Digital Frontier・「先輩はおとこのこ」製作委員会
公式サイト:https://senpaiha-otokonoko.com/
公式X(旧Twitter):https://x.com/painoko_anime

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