興収で読む北米映画トレンド
トランプ大統領がアンバサダー任命、メル・ギブソン新作『フライト・リスク』が北米No.1

1月20日、ドナルド・トランプが第47代アメリカ合衆国の大統領に就任した。その3日前の1月17日、ハリウッドが未曾有の山火事にあえぐなか、トランプは3人のハリウッドスターを「スペシャル・アンバサダー」に任命している。ジョン・ヴォイト、シルヴェスター・スタローン、そしてメル・ギブソンだ(いずれも共和党支持者)。
「過去4年間、ビジネスの多くを外国に奪われたハリウッドを、以前よりも巨大に、よりよく、より強力に蘇らせるために特使として働いてくれます! 耳目となってくれる才能豊かな3人の提案を、私が実現するのです。アメリカ合衆国と同じく、ハリウッドにも黄金時代が再びやってきます!」(※)
トランプがSNSにそう綴った翌週末、メル・ギブソンによる9年ぶりの監督作『フライト・リスク』が北米映画ランキングのNo.1に輝いたことは、いくら偶然とはいえ象徴的で奇妙な符合だ。1月24日~26日の3日間で、オープニング興行収入は1200万ドル。海外39市場を含む全世界興行収入は1620万ドルという滑り出しとなった。
『リーサル・ウェポン』『マッドマックス』シリーズなどで名優として知られ、『ブレイブハート』(1995年)ではアカデミー賞監督賞に輝いたギブソンだが、監督業は『ハクソー・リッジ』(2016年)以来。重要参考人を移送中の保安官補が、フライト中の飛行機内で、パイロットに扮した殺し屋と命がけの攻防に挑むアクションスリラーだ。

ホリデー直後の1月は話題作や大作映画に乏しく、今年の北米興行も静かなスタートとなっている。本作はギブソン監督作としては珍しい王道のジャンル映画だが、北米配給のライオンズゲートはこのタイミングを活かしてランキングの首位奪取に成功。1200万ドルという数字は決して大きくないが、製作費2500万ドルという低コストや、今後の配信展開などを踏まえれば上々だろう。
なおライオンズゲートとしては、ジェラルド・バトラー主演『ザ・アウトロー』(2018年)の続編映画『Den of Thieves 2: Pantera(原題)』が2週間前に同じく首位をつかんだのと同じ“戦略勝ち”だ。よく似た種類のアクションスリラーを連続公開したのは、本作がマーク・ウォールバーグ主演であるため。実際に観客の約3分の1がウォールバーグ目当てであり、『Den of Thieves 2: Pantera』よりも女性客の比率が大きいのだ。

Rotten Tomatoesでは批評家スコア24%・観客スコア64%、映画館の出口調査に基づくCinemaScoreでは「C」評価と支持率は渋めだが、ギブソンにとってはさほど痛くない。そもそもギブソン作品としての知名度は高くないようで、「ギブソン作品だから」劇場に足を運んだという観客は全体の15%。そのうえ興行的にはまずまずの成績だから、ギブソンが鋭意準備中である『パッション』(2004年)の続編映画にはむしろ追い風となりそうだ。
私生活のスキャンダルにはじまり、政治的なスタンスや発言もあいまって近年は控えめな活動を続けてきたギブソンだが、トランプによるアンバサダー任命と『フライト・リスク』の相乗効果で復活の兆しが見えてきた。山火事では自宅が焼失する悲劇に見舞われたものの、アンバサダーとしての仕事に熱意を燃やし、ハリウッドからの人材流出を食い止めたい、問題を解決したいと語っている。『フライト・リスク』の日本公開は3月7日。