『おむすび』いまだ“震災の記憶”に囚われる孝雄 聖人にこぼす真紀が“生きた証”

生前、歩に真紀が語っていた「仕事をしているお父ちゃんが一番カッコいい」という言葉を胸に一歩を踏み出した孝雄。近頃は、仕事を通じて真紀が憧れていたギャルたちとも交流を深め、ようやく悲しみから抜け出せたように見えていた。だが、孝雄は前に進めば進むほど、真紀との思い出から遠ざかっていくことへの恐怖と罪悪感に人知れず苛まされていたのだ。そんな孝雄にとっては、家に残る柱の傷や破れた襖だけが、真紀との絆を結んでくれる唯一のものに感じられるのではないだろうか。だから、東京のシューズブランドと打ち合わせするために、一瞬でも家を離れることが孝雄は怖いのだろう。「あの家、壊したらホンマに真紀が消えてまう」と聖人(北村有起哉)にこぼす孝雄がいつもより小さく見えて、胸が締め付けられる。
大切な人を失った悲しみというのは、一朝一夕で乗り越えられるものではない。後ろ髪を引かれながら前に進み、立ち止まったり、時々引き戻されるように後退したりしながら、長い長い時間、それこそ一生をかけて少しずつ癒されていくものだ。孝雄が一歩を踏み出したから、「はい、これで解決!」と胸を撫で下ろすのではなく、その後の心の揺れ動きもしっかりと描く脚本の丁寧さが光る。

一方で、本来は宝物のような真紀との思い出が、孝雄をある種、縛っているものになってしまっている今の状況をきっと真紀自身は望んでいないのではないだろうか。何より、「うちのお父ちゃんならどこに行っても大丈夫やもん」と、高校を卒業したら孝雄も連れて上京しようとしていた真紀のことだ。コラボの話を聞いたら、誰よりも喜んで、一緒に東京に行きたいと言い出すような気がする。
■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、佐野勇斗、藤原紀香、三宅弘城、萩原利久、緒形直人、松井玲奈、平祐奈
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK