『御上先生』生徒の気づきもたらす松坂桃李の言葉 堀田真由が担う根源的な“悪”への視点

『御上先生』が指し示す社会と教育の“闇”

「ケヴィン・カーターがシャッターを押さなければ、誰にも届かなかった貧困があった」

 神崎の確信を込めた言葉は、この世界へコミットせざるを得ない自分自身を直視したもので“大人の皮をかぶった子ども”だった神崎に責任の萌芽が生じたことを意味する。感受性と思考力を備えた生徒たちが自己開示を通して気づきを共有する意見交換のシーンは、観るものの心に浄化の感覚を呼び起こすものだった。なお、英国のバンド、マニック・ストリート・プリーチャーズ(Manic Street Preachers)の「ケビン・カーター(Kevin Carter)」は自死を選んだ写真家を歌った曲であり、本作と共通する視点を備えている。

 現実世界に生きる私たちはバタフライエフェクトの一端に触れている。電撃引退した大物タレントとテレビ局員の事例を持ち出すまでもなく、たった一言、投じた一石が重大な結果に波及することを誰もが感じていることだろう。このタイミングで自身が人間社会という複雑な生態系のどこにいるか、スカベンジャーなのかを問うことは意味がある。

 ドラマとして隙がない『御上先生』だが、第2話で最大の驚きはラストシーンに仕組まれていた。面会室の暗がりから浮かび上がる真山弓弦(堀田真由)の相貌は、人間存在の根源的な闇を体現するようだった。弓弦の言葉は一見すると中二病そのもので、そこにある病理を、古代が語るように個人の生育歴や社会構造に還元することはたやすい。“テロ”や“革命”といった言葉から、学園紛争に通じる社会への異議申立ての意識を読み取ることも可能だ。けれども本当にそれだけだろうか? 人間という生きものが個人また集団として、必然的に抱えてしまう“悪”への視線がそこからは感じられた。

 シリアスになりすぎたので補足すると、御上が真顔で口にする霞が関文学(と永田町文学)のくだりは、今作では希少部位の“笑えるところ”である。槙野(岡田将生)との絡みからも伝わってくるが、近いようで遠い、知っているようで知らない官僚の日常を垣間見えるのは本作の効用と言えなくもない。

『御上先生』の画像

日曜劇場『御上先生』

「日本の教育を変えてやろう」という熱意を持ったエリート文科省官僚が高校教師となり、令和の18歳とともに、日本教育にはびこる権力争いや思惑へ立ち向かうオリジナル学園ドラマ。

■放送情報
日曜劇場『御上先生』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:松坂桃李、奥平大兼、蒔田彩珠、窪塚愛流、吉柳咲良、豊田裕大、上坂樹里、髙石あかり、八村倫太郎、山下幸輝、夏生大湖、影山優佳、永瀬莉子、森愁斗、安斉星来、矢吹奈子、今井柊斗、真弓孟之、西本まりん、花岡すみれ、野内まる、山田健人、渡辺色、青山凌大、藤本一輝、唐木俊輔、大塚萌香、鈴川紗由、芹澤雛梨、白倉碧空、吉岡里帆、迫田孝也、臼田あさ美、櫻井海音、林泰文、及川光博、常盤貴子、北村一輝
脚本:詩森ろば
脚本協力:畠山隼一、岡田真理
演出:宮崎陽平、嶋田広野、小牧桜
プロデュース :飯田和孝、中西真央、中澤美波
教育監修:西岡壱誠
学校教育監修:工藤勇一
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/mikami_sensei_tbs/

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