佐藤浩市になぜ引き込まれるのか 『119 エマージェンシーコール』で際立つ映画俳優の存在感

佐藤浩市、『119』で放つ映画俳優の存在感 

 ドラマ『119 エマージェンシーコール』(フジテレビ系/以下、『119』)の主人公・雪(清野菜名)は、5年前に“レジェンド”堂島(佐藤浩市)の言葉を聞き、指令管制員になることを決意した。

「指令管制員は想像力で人を救うんだよ」

 第2話で雪は、尊敬する堂島と上司の高千穂(中村ゆり)の仲睦まじさを見て、教育係だった兼下(瀬戸康史)との対立ばかりの関係に思い悩んでいた。一方、別のことで悩み、屋上でぼーっとしていた兼下は、居合わせた堂島に対し、なぜ課にいるのかと聞く。すると、悩む後輩たちの“心の安定剤”のような存在となっている堂島は「いつだって最初に最悪の事態を防げるのは指令管制員だけだ」と自分が気が付いたことを話す。「俺はさ……」と、どこか自分のことを懐かしむように、そして誇らしげに語るその姿にはなぜか引き込まれてしまう。

 多くの作品で魅せてきた佐藤浩市のその重厚な表現力は、言うまでもなく日本トップクラスだ。彼の魅力に夢中になった作品はいくつもあるが、ここ10年の中でもとりわけ、前後編に分かれて公開された映画『64-ロクヨン-』の演技が記憶に残っている。

 7日間に起きた昭和64年の誘拐事件を軸に、隠蔽された真相や、行方不明となった自身の娘を追う男を中心に描く同作で、佐藤が演じたのはその男・三上だ。警察官としての頼もしさと不安感、娘の行方を案じる父親としての弱々しさと怒りなど、それぞれの立場で感情を表現する佐藤の姿は、視聴者も一緒に怒りや不安を感じてしまうような強い“共感”を生み出していた。

 また、東日本大震災直後、津波の被害を受けた福島第一原子力発電所で働く職員たちの葛藤を描いた映画『Fukushima 50』も記憶に新しい。所長の昌郎(渡辺謙)の同期で、1・2号機当直長を務める利夫を演じた佐藤。原子炉で極めて危険な作業を行う人を決めなければならない苦渋の決断を迫られた利夫は、涙をためながら自ら手を挙げ、控えめに作業に向かう人を募るシーンがある。原子炉に向かう仲間たちの無事を願う心のざわつきや、現場を疎かにした上の人間への怒り、この発電所にかける真摯な思いなど、様々な感情が一挙に渦巻く映画の中で、本当の辛さが伝わってくる重要な場面だ。そんな佐藤の演技を見て、“感情に直接訴えかけてくる”とはこのことか、と思わずにはいられないだろう。

東日本大震災から10年、『Fukushima 50』が発するメッセージ

2020年に劇場公開された『Fukushima 50』が、3月12日の『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で本編ノーカット版…

 2023年に公開された映画『春に散る』では心臓病を患う元ボクサー役を演じた。強くなりたいと願う翔吾(横浜流星)の根気に負けて、再びボクシングの世界に踏み入れることになる初老の男性だ。その演技力は、開始1秒目からグッと映画に視聴者を引き付ける。劇中では「おじいちゃん」と言われるように弱々しい年寄りにも見えるが、ボクシングの構えを見せたら何歳も若くなる。少しの表情の差で、印象が変わるのだということを目の当たりにした。

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