『劇映画 孤独のグルメ』に詰まった松重豊の愛 110分の空腹の後に訪れる幸福のために

『映画 孤独のグルメ』に詰まった松重豊の愛

 五郎は、迷い込んだ先で出会った、韓国領の島のコミュニティで暮らす女性・志穂(内田有紀)との縁が繋ぐ形で、東京で、コロナ禍で経営が傾きチャーハンしか出さなくなった中華ラーメン店「さんせりて」の店主(オダギリジョー)と出会う。ちなみに「さんせりて」のロゴは、志穂がデザインしたタンポポのイラストだ。ゴローとラーメン繋がりで伊丹十三監督の映画『タンポポ』を思わずにいられないのも素敵である。

 五郎は、「思い出のスープ探し」という自身が請け負った依頼のために、「さんせりて」の店主に「スープ作り」を頼み、結果的に店の再生に関わることになるのだが、そこで出会ったのが常連客でドラマ『孤高のグルメ』の助監督・中川(磯村勇斗)である。完成した究極のラーメンを食べて、ドラマに出てほしいと店主に頼み込む中川の姿は、まさにドラマ『孤独のグルメ』の根幹である「スタッフによる入念なリサーチ」そのものを示している。また、遠藤憲一演じる善福寺六郎を五郎に見立てて、五郎自身も特別出演する『孤高のグルメ』の撮影風景は、五郎・スタッフ・店の人で作る『孤独のグルメ』そのものを照らし出す。さらに放送されたドラマを観ながら思い思いにご飯を食べる人々の姿もあって、我々視聴者が担うところである『孤独のグルメ』を観るという行為そのものまでが入念に描き込まれている。

 そして、何よりこれは1人の男性の思い出の中にある至高の味を探す映画である。幼少期に「いっちゃん」と言われていた松尾一郎が忘れられない、母が作ってくれた「いっちゃん汁」は、五郎が各地を回り、体を張って食材を集め、一流の料理人の手を借りたからといって、辿りつけるとは限らない。本当に特別な味は、もしかすると私たちの心の中にしかないのかもしれない。それでもお腹をすかせ、まだ見ぬ美味しいご飯を追い求め続けることこそ、「孤独のグルメ」を愛する者の宿命だろう。これから映画館に足を運ぶ人には、映画を観た後に何を食べるかをきちんと計画した上で行くことをオススメする。できればとびっきり美味しいラーメンが望ましい。110分の空腹の後の幸福が待っている。

■公開情報
『劇映画 孤独のグルメ』
全国公開中
監督:松重豊
脚本:松重豊、田口佳宏
出演:松重豊、内田有紀、磯村勇斗、村田雄浩、ユ・ジェミョン(特別出演)、塩見三省、杏、オダギリジョー
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「空腹と俺」
制作:共同テレビジョン/FILM
配給:東宝
©2025『劇映画 孤独のグルメ』製作委員会
公式サイト:https://gekieiga-kodokunogurume.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/kodokugurume
公式X(旧Twitter):https://x.com/tx_kodokugurume
公式Instagram:https://www.instagram.com/tx.kodokugurume/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@tx_kodokugurume

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる