監督、脚本、俳優の三位一体 『ビーキーパー』はジェイソン・ステイサム史上最高傑作だ!
「イェイェー! 今日も老人を騙していきまっしょい! 無駄に金を貯めこんでる連中からガンガン詐欺って! オレらで経済回しましょう! ウェーイ! ……って、おいおい! なんかムスッとした顔のオッサンが、オレらのオフィスに抗議にきたぞ。あぁん? オレらが詐欺ったせいで自殺した婆さんの、ご近所さんだぁ? 知ったこっちゃねぇよ! セキュリティのお前ら、このバカを摘まみだせ!」……などと調子に乗るオンライン詐欺グループであったが、そのオッサンことアダム・クレイ(ジェイソン・ステイサム)は、常軌を逸した戦闘力を持つ元特殊工作員だった……。
そんなストーリーの本作、『ビーキーパー』(2024年)が絶賛公開中である。そして個人的にもジェイソン・ステイサム史上、最高傑作と言いたい。これぞステイサム、まさにステイサム。私が観たかったステイサムの理想形がここにある。ステイサムといえば、巨大なネコ科の肉食獣を思わせるしなやかな身体能力と、往年の竹内力と勝負できるほどの圧倒的な強面っぷり、そして時おり見せる100点満点の優しい笑顔である。本作には、そのすべてが詰まっていた。
あらすじだけ書けば、この映画は何も新しいことはしていない。悪党どもに騙され、自ら命を絶った善人がいて、そのお隣さんだった元特殊工作員のステイサムがブチギレて、想像を絶する戦闘力で悪党を皆殺しにする。ステイサム自身もこういう役を何度も演じているし、ステイサム以外の役者でも、もう何千回と語られてきた話だ。しかし、本作は間違いなく斬新であり、ステイサムの新たな代表作になるだろう。これはステイサム、監督のデヴィッド・エアー、脚本のカート・ウィマーが、THE ALFEEを超える三位一体の化学反応を起こしたからだ。
まず注目したいのは脚本のカート・ウィマーだ。彼は私が敬愛する脚本家のひとりである。何が凄いかって、この御方は発想の飛躍が凄いのだ。主に日本の特定世代のアニメ・漫画のファンに多大な影響を与えた『リベリオン』(2002年)を生み出した男である。敵が持っている銃の位置を把握しておけば、飛んでくる銃弾を自在に避けて、自分の弾丸を一方的に当てることができる無敵の戦闘術ガン=カタ……そんな大嘘極まりないが、それでも嘘を買いたくなる設定を作り出せる男なのだ。さらに加速度的に話のスケールを膨らませるのも上手く、『リベリオン』でも一匹の犬を助けるところから、最悪政府が転覆するまでを107分で描いてみせた。一方で、そのあまりにムチャな発想ゆえに、途中から「そんなバカな」と正気に戻る客が出てしまう弱点があるのも事実だろう。
そんなウィマーの弱点を見事に補ったのが監督のデヴィッド・エアーである。エアーといえば、『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)や『フューリー』(2014年)といった、鬼気迫る臨場感と、徹底的なヴァイオレンス描写に定評がある人物だ。今回も無茶苦茶な強さと、急速に拡大していく大風呂敷を大真面目に、なおかつリアリティ満載で描いている。随所に炸裂する生々しいゴア描写や、その圧倒的な「マジさ」ゆえに、どんな無茶なことが起きても、まるで地元の怖い先輩が大真面目な時のように、「は、はい! こうなって当然っスよね!」と二つ返事をしてしまうのである。これは他の監督が撮っていたら、成立していなかったかもしれない。