『エクスペンダブルズ』10年ぶり新作に感じる老いの影 俺たちのラングレンはまだイケる!
ストレスに苛まれた現代人は、みな数年に一度は『エクスペンダブルズ』シリーズを観てバカになるべきだ。
ぐちゃぐちゃになった頭をリセットすることができる。精神のデトックスである。
ただしIQは一時的に大幅に下がる。九九は三の段までしか言えなくなるし、漢字は自分の名前を書くのがギリになるし、白地図を見せられても「北かいどう」しか書けなくなるが、気にするな。本来、人間はそれぐらいの知識で生きていける。
映画好き中学生が一度は考えた「ランボーやターミネーターや黄飛鴻がチーム組んで悪の組織と戦ったらめっちゃ面白いんちゃうん!?」という妄想を、シルヴェスター・スタローンが現実のものとした夢のような企画が、この『エクスペンダブルズ』シリーズである。
2010年に第1作目が公開されてから、ちょうど2年おきに3作目まで公開されている。その2年というスパンが絶妙で、社会生活におけるストレスが頂点に達した頃に新作が公開され、そのつどバカになってリセットすることができた。
だが、3作目『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』公開から2年以上たっても、4作目が公開される様子はなかった。
我々はデトックスの手段を失い、ストレスは飽和状態となり、このまま廃人になるのを待つのみと覚悟を決めた2024年、突如新作が公開された。
それが今作『エクスペンダブルズ ニューブラッド』である。実に10年待たされた。
演者の加齢を役にも反映した律儀な演出
だが、たかが10年されど10年である。新生児なら10歳の小学生になるだけだが、もともと壮年から初老のメンバー中心だった傭兵軍団にとって、10年という歳月は大きい。みんな確実におじいちゃんとなっていた。
今作にも登場するオリジナルメンバーたち、ドルフ・ラングレン66歳、ランディ・クートゥア60歳、ジェイソン・ステイサム56歳、リーダーのシルヴェスター・スタローンに至っては77歳である。ウチの親父より年上だ。
そして、演者の加齢を役柄上の人物にもきっちり反映させている。律義である。
スタローン演じるリーダーのバーニーが「昨日無理して背中の筋を痛めた」とか言ってるさまを観て、『ロッキー』『ランボー』『オーバー・ザ・トップ』で育った筆者は涙した。
だが、もっとも老化が顕著だったのは、ラングレン演じるガンナー・ヤンセンである。
ドルフ・ラングレンと言えば、筆者世代(アラフィフ)にとっては『ロッキー4/炎の友情』(1985年)のイワン・ドラゴである。“ロシアの殺人マシーン”ドラゴは、敵役ながらも死ぬほどカッコよかった。ラングレン自身、極真空手の名選手であり、空手界のヒーローでもあった。あのツンツンに逆立てた髪型が、空手界で流行った。K-1の佐竹雅昭選手を想像してもらえばいい。もちろん筆者も真似をした。
その死ぬほどカッコよかったラングレンの今作での扱いはと言うと。
もともとメンタルの弱さ故の薬物中毒及びアルコール依存症という設定なのだが、現在は薬物もやめ、がんばって断酒会に通っている。マッチングアプリで知り合った女性に、年甲斐もなく恋をしている(会ったことはない)。射撃の名手だったはずなのに、老眼および禁断症状のために狙いが定まらない。そのポンコツ化および元来の空気の読めなさのため、仲間からの扱いも雑である。演者のラングレン自身も、スタローンに「俺の婆さんの方が演技が上手いぞ!」と言われて号泣する(公式パンフレットより)……。
さんざんな扱いだ。「俺たちのドラゴ」はどこに行った。
大丈夫。ちゃんと見せ場はある。「もう断酒はやめだ!」とばかりにポケット瓶のウイスキーを飲む。途端に射撃が冴えだす。ラングレン復活。この、まるで“傭兵版あぶさん”な流れにはカタルシスがある。これでまた、依存症に逆戻りだとしても。
今作には、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、ジェット・リーら、登場しなかったレギュラーメンバーも数名いる。なにしろ10年ぶりであり、ウィリスのように俳優業自体からリタイアした者もいる。さびしく悲しいが、諸行無常は世の常だ。