土井裕泰×野木亜紀子が“オリジナル”にこだわった理由とは? 『スロウトレイン』創作秘話
「自分かもしれない」と思えるようなキャラクターに
――登場人物は、愛おしいキャラクターばかりです。
野木:魅力的な役者さんが集まってくださっていたので、「それぞれに一番どんな役をやってほしいか」を考えてキャラクターを作っていった感じですね。たとえば松坂さん演じる潮は、江ノ電にもいろいろな仕事がある中で、駅員だとかっこよくなってしまう。松坂さん、カッコいいので。その頃、江ノ電の歴史から調べようと思って資料を片っ端から読んでいたら、すごく長く働いていた駅長さんが「いかに軌道が大切か」ということを書かれていて、「なるほど」と。軌道整備をする保線員の方たちに実際に取材をさせてもらったことで、具体的なお話も聞けて、クライマックスのイメージにつながりました。松さんはいろんな作品に出られてますけど、大概モテる役のような気がして。ホームドラマとなると子どもがいて、旦那さんがいて、という主人公が多いけれども、今は令和だし、そんな松さんが独身の主人公をやってもいいんじゃないかな、という思いでお願いしました。
――このお話を受け取った、松たか子さん、多部未華子さん、松坂桃李さんの反応は?
土井:みなさん違和感は一切感じていないというか、特に松坂くんは実際にお姉ちゃんと妹がいるので、「ものすごくわかる」と言いながらやってましたね(笑)。いわゆる通り一遍ではない設定について、「なるほどね」「そういうこともあるよね」と、みんなどこかで思いながらやってくれていたと思います。「なんで番い(つがい)にしたがるのかしら」というセリフがありますが、「いい人いないの?」とか「誰かいたほうが安心じゃない?」「寂しくない?」と自然に言ってしまうことがあるけれど、それは人それぞれなんだよなとハッとするというか。お正月に、そういうことをあまり押し付けがましくなく、楽しく表現できたらいいなと思っていました。それに、昔は家族というと血のつながりに縛られていたけれど、今はそれも人それぞれで、「お正月とかに友達が集まるように集まってくれたら、それはもう家族なんじゃないの」と。そういった意味も含めて、最後のお正月のシーンを描きました。
――まさにお正月に観て嬉しいドラマだと感じましたが、“新春ドラマ”にするために意識したことはありますか?
野木:「特番の枠がお正月くらいしかない」という話だったので、初めからお正月ドラマのつもりで考えました。なんとなく最初に浮かんだのが、松さん演じる主人公が“大晦日に1人で蕎麦をすすっている”というシーンだったので、そこに向けて作ったところが少しあります。たぶん、世の中には大晦日に1人で蕎麦を食べている人もたくさんいると思うので、「そういうこともあるよね」と。お正月のホームドラマであまりこういった光景はないと思いますが、1人でそばを食べている人たちと、電波を通して通じ合えたらと思いました。
土井:僕が入社する前から、TBSでは「向田邦子新春ドラマスペシャル」を毎年放送していたんです。いわゆる家族万歳みたいなドラマではなくて、年によっていろんなものを抱えていたり、様々な時代が描かれたりするんですが、やっぱりお正月にホームドラマをやるのであれば、家族みんなで気楽に観れるけれど、観た後に何か残るものでありたいなとは思っていました。
野木:恐ろしいことを言いますね、向田さんのドラマと比べるなんて(笑)。
―― 最後に、新たな家族像をホームドラマとして発信する意味についても聞かせてください。
土井:野木さんの脚本を読むと、今までのホームドラマを「どこか自分とは違うな」と違和感を持って観ていた人が多いんじゃないかなと、ちょっと思いますよね。たとえば、ドラマに出てくる40代、50代の独身女性は「私は運命の人に出会えないのかしら」と思っている、というステレオタイプな役割を担うことが多いけど、「これ私かも」と思える人がいるようで、実はそんなにいないのかもしれない。野木さんの作品の中では、フィクションの物語では描かれてこなかったけれど、実は当たり前で、みんなが「自分かもしれない」と思えるような人が描かれているのかなと感じています。
野木:1年後も5年後も10年後もホームドラマは作れると思いますし、変遷していく家族像みたいなものはいくらでも書けるんじゃないかなと思います。ただ、実際に作品がどれだけ影響を与えられているかはわからなくて。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は海野(つなみ)先生の原作あっての作品ですが、あそこで描いたことによって世界がどれくらい変わったかを考えると、結局大して変わっていない気もしますし。本当に世の進みはゆっくりなので、「あまりそこに期待してもなぁ」という思いもありますが、劇的に何かを変えることはできなくても、ドラマでスタンダードとして描くことで、スタンダードになっていくこともなくはないかな、と思っています。
■放送情報
新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』
TBS系にて、1月2日(木)21:00〜放送
出演:松たか子、多部未華子、松坂桃李、星野源、チュ・ジョンヒョク、松本穂香、池谷のぶえ、倉悠貴、古舘寛治、宇野祥平、飯塚悟志(東京03)、菅原大吉、中村優子、毎田暖乃、リリー・フランキー、井浦新
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:小牧桜
スーパーバイジングプロデューサー:那須田淳
協力プロデューサー:韓哲、益田千愛
演出:土井裕泰
©TBS
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