菅田将暉が成立させた久能整の“フラットさ” 映画『ミステリと言う勿れ』にみる演技の妙
菅田の生み出す久能整像がブレてしまっては、作品の印象はまったく変わってしまう。いや、『ミステリと言う勿れ』という作品の前提が崩れてしまう。これはドラマのときから変わらぬものではあるが、120分以上もかけて俳優たちの掛け合いが繰り広げられる「劇場版」だからこそより際立つものがあると思う。
それに整の声のトーンやテンポ、表情に変化が生まれるとき、物語は大きな展開を見せることになるのも面白い。声や表情の変化具合のことではもちろんない。整は感情の起伏が浅く、つねにフラットな人間である。だからこそ演じる菅田は、あまり大きな変化をつけることが許されない。これもまた久能整像のブレにつながってしまうからだ。けれども、整の一挙一動を見つめ続ける私たちは、彼の微細な変化を見逃すことはないだろう。菅田の演技における出力のさじ加減にハッとさせられるはずだ。
このように書くと、久能整のことを“ツクリモノ”のように感じてしまう人がいるかもしれない。たしかに創作物上のキャラクターであることは間違いないのだが、彼は生きている。菅田の表現によって、この世のどこかに存在する人物として命を吹き込まれているのだ。年も変わり、心機一転。柔軟な思考の持ち方を彼から学びたいものである。
■放送情報
映画『ミステリと言う勿れ』
フジテレビ系にて、1月4日(土) 21:00~23:40放送
出演:菅田将暉、松下洸平、町田啓太、原菜乃華、萩原利久、鈴木保奈美、滝藤賢一、でんでん、野間口徹、松坂慶子、松嶋菜々子、伊藤沙莉、尾上松也 、筒井道隆、永山瑛太、角野卓造、段田安則、柴咲コウ
原作:田村由美『ミステリと言う勿れ』(小学館『月刊フラワーズ』連載中)
脚本:相沢友子
監督:松山博昭
音楽:Ken Arai
主題歌:King Gnu「硝子窓」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:フジテレビジョン、小学館、TopCoat、東宝、FNS27社
©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社