2024年の年間ベスト企画
小野寺系の「2024年 年間ベスト映画TOP10」 世界に対する個々の“修正力”が鍵に

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、「インセル」や、日本で「弱者男性」などと呼ばれる人々の一部が暴徒化し、社会を混乱させる状況を描いた前作『ジョーカー』を引き継ぎ、その有害さを生み出す身勝手な妄想を完膚なきまでに打ち壊し、至極妥当な「現実」を突きつけるという試みをおこなった。
同時に、主人公アーサーのささやかな成長を描いているところも感動的だった。それが幸せの実を結ぶことはないが、その成長そのものにこそ祝福があり、観客に希望の種をもたらす。トッド・フィリップス監督の時代を見る目の確かさは素晴らしいが、ドナルド・トランプ再選の結果を見ると、アメリカ社会はまだまだ夢を見ていたいことが理解できるように、この作品の重要性が十分に理解されず、興行的な結果にも結びつかなかったのは残念。正当な評価を得るには、いくらかの時間を必要とするだろう。
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を徹底考察 作品に仕掛けられた“最大のジョーク”とは?
R指定作品として、初めて10億ドル以上の興行収入を記録したほどに大きなブームを巻き起こした、トッド・フィリップス監督作『ジョーカ…『憐れみの3章』は、ここ数年のうち、最も予測がつかない面白い展開を用意したオムニバス作品。戯曲『カリギュラ』を基に、高級な「不条理劇」を現代に提出してくれたことは賞賛に値する。しかしこれもまた、ある意味で現在の世界を映し出しているといえるかもしれない。
日本から『ナミビアの砂漠』なる傑作が出現したことは望外の喜びだ。日本の映画業界、引いては芸能界や政界、その他の業界で性加害事件が次々に発覚しているが、そんな社会への不満を、パッションとともに作品に叩きつけた、山中瑶子監督や河合優実の鋭さや勢いは、まさにワールドクラス。このような問題を曖昧にし続けてきた日本の作品群を、“墓掘り人”として地中に埋めたパンク性を、高く評価したい。
劇中でスマホに映し出された、“何もない風景”が象徴するように、もう一度世界をいちから見つめ、新たな価値観を基に構築し直すこと。それがいま、混迷のなかで多くの人々に求められる姿勢だといえるのではないか。























