『葬送のフリーレン』から『魔王2099』へ “魔王討伐後”世界の新天地

 だが、本作の興味深い点はそれだけにとどまらない。注目すべきは第8話以降に展開される「電脳魔導都市・秋葉原編」である。「秋葉原編」にて、ベルトールはかつての配下の行方を探るため、「秋葉原魔法学園」への短期留学を決行する。ベルトールの学園における立ち位置や、彼の巻き起こす騒動が我々に思い起こさせるのは、かつての「魔法」と「学園」が合わさったいくつもの作品だ。ベルトールの配下・マキナが転入する際の挨拶を「80年くらい前のアニメ」で観たと言うとき、そこには視聴者が見知った数々の作品が背後に見え隠れしている。

 このとき本作は、ここまで追ってきたようなジャンルを超えて別の、すなわちライトノベル(と、そのアニメ化)で隆盛を誇った「魔法」と「学園」という2つの要素が組み合わさったジャンルへと作風を一変させる。数多の「物語」を総覧できる立場にいるベルトールが、「魔王討伐後」の物語すら飛び越えて、異なるジャンルへと参入すること。それはフリーレンが作品に内在することで初めて可能になった物語の「参照」を異なるジャンルで行ったということだろう。ベルトールを通して彼を取り巻く日常をまなざすことで初めて、飽和した「魔法」と「学園」の要素が合わさったジャンルもまた、再び照らし出される。

 このことはベルトールが「不死」の存在であり、フリーレンと同じような立ち位置であるからこそできることではないだろうか。配信の冒頭で定命の者たちに生の苦しみを問うとき、彼は自身が「歴史」の象徴であることに極めて自覚的である。我々の視線がベルトールの視線と重なり、その彼が「魔法学園」に転入するとき、筆者は「ジャンル」を前提として参照するこの系譜の新たな展開を感じないわけにはいかない。

 『魔王2099』では、ベルトールはいまだ魔王として世界に君臨することを夢見ている。彼の野望が成就するのか、あるいは1人の配信者(とはいっても、登録者の数は圧倒的だが)として「日常」のなかで揺蕩うのか。その結末は未知数にしろ、少なくとも現時点において本作とベルトールは、「物語」のあとの世界を描く作品の新天地にいる。

■放送情報
『魔王2099』
TOKYO MXほかにて、毎週土曜24:00〜放送
各配信プラットフォームにて配信中
キャスト:日野聡(ベルトール=ベルベット・ベールシュバルト役)、伊藤美来(マキナ=ソレージュ役)、菱川花菜(高橋役)ほか
原作:紫大悟(KADOKAWA/ファンタジア文庫刊)
キャラクター原案:クレタ
監督:安藤良
シリーズ構成・脚本:百瀬祐一郎
キャラクターデザイン:谷川亮介
音響監督:明田川仁
音楽:加藤達也
アニメーション制作:J.C.STAFF
©2024 紫大悟・クレタ/KADOKAWA/魔王2099製作委員会
公式サイト:https://2099.world
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/2099_anime

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる