神木隆之介、『海に眠るダイヤモンド』主演の必然性 “一人二役”を成立させた確かな実力
放送中の日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)を観ていて、神木隆之介のすごさに改めて圧倒されている。
これは20代前半の若手から大ベテランまで、日本のエンターテインメントシーンの中心的存在が一堂に会している作品だ。座長として率いることができるのは、神木をおいてほかにいないのではないだろうか。その理由を言葉にしてみたい。
本作は、1955年からの石炭産業で躍進した端島(「軍艦島」ともいわれる)と現代の東京を舞台とし、およそ70年にわたる愛と友情、そして家族の物語を描くものだ。神木が演じているのは、昭和の時代を生きる荒木鉄平と、令和という現代を生きる青年・玲央。鉄平は愛する端島のため、鷹羽鉱業の職員として奮闘してきた。いっぽうの玲央は惰性的に日々を消費していたホストで、現在はいづみ(宮本信子)との出会いが転機となり、彼女の元に身を寄せている。神木は一人二役で、この対照的な人物を演じているわけだ。
一人二役はもちろん誰にでもできるものではないのだろうが、神木のレベルであれば実現できて当然のように思ってしまう。事実、私たちは毎週の放送で、鉄平と玲央のそれぞれの人生をごく当然のものとして受け入れているのではないか。そう、じつにあっさりと。ごくありふれたもののように。それくらい神木は、自然とこのふたつのキャラクターをひとつの作品内で立ち上げ、生きてみせている。
先述しているように、鉄平と玲央は見た目も性格も対照的。彼らが生きている時代は何十年も差があるのだから、それぞれのキャラクターに違いを生じさせることなど、神木にとってわけのないことだとつい思ってしまう。これはやはり、俳優・神木隆之介のこれまでの歩みを見てきたからなのだろう。
彼が、子役時代にキャリアをスタートさせた演技者であることを知らぬ者はほとんどいないだろう。小学生の頃から映画でもドラマでも主役級の役どころを務め、現在までその歩みを止めずにやってきた。彼が俳優として停滞するところは、私たちの目に一度も映ったことはないのではないか(もちろん、いち観客/視聴者には分からない苦労があるのだろうが)。神木はずっと国民的俳優だったから、『らんまん』(2023年度前期/NHK総合)で「朝ドラ」の主演を務めるのも順当だと思ったものだ。
そしてそれは、今回の『海に眠るダイヤモンド』にもいえること。本作はさまざまな世代の力ある演技者たちが集まり、アツい展開の中で演技の火花を散らし合う「日曜劇場」の作品だ。神木と世代の近い者でいえば、朝ドラで主演を務めた経験のある杉咲花と土屋太鳳がいて、中堅世代では斎藤工が作品の中核を担い、國村隼に中嶋朋子といったベテラン、そして宮本信子のような大ベテランまでが揃っている。凄まじい座組である。