『嘘解きレトリック』鹿乃子が繊細に描き出した“本当” 温かな余韻を残した松本穂香の一言

『嘘解きレトリック』鹿乃子が描いた本当

 その頃、左右馬は寺へと向かう途中だった。つくも焼き屋のじいさん(花王おさむ)の屋台引きを手伝い、合間に稲荷の掃除もこなしていく。そこへ1人の婦人が近づき、祝探偵事務所への道を尋ねてきた。その様子から、左右馬は即座に彼女が鹿乃子の母・フミだと悟る。しかし素性は明かさず、「祝探偵は相当面倒なやつですからねぇ」と、さりげなく会話を紡いでいった。

 物を盗む父を持った過去を背負う嘉助は、人を信じる心さえ失っていた。そんな彼に、利市は静かに語りかける。「助けてくれたり、許してくれたり。信じてくれたり。信じてくれた人がいたからなんだよな」。そして「いいことが一つあったと思って、嫌なこと一つ帳消しにしな」と、優しく背中を押した。そしてこの言葉は、側でそっと聞いていた鹿乃子の心にも深く響いたのではないだろうか。彼女もまた、誰かに信じてもらえたからこそ、少しずつ心を開いていくことができたのだから。

 ようやく巡り会えた母娘の間に、沈黙が流れる。村を出る鹿乃子に「いつでも帰っておいで」と告げたあの日。その言葉が嘘だと見抜く能力があるからこそ、鹿乃子は「自分の居場所はもうここにはない」と感じてしまったのではないか。フミの胸を、そんな後悔が締め付けていた。だが、それは決して娘を拒絶したわけではなく、むしろ村に戻って再び傷つくことを、母として案じていたからこそだった。「少しの嘘を恐れて、たくさんのホントを伝えていなかった」。フミの言葉には、長い年月を経て初めて紡ぎ出せた真実が込められていた。

「嘘がわかるってことは、ホントがわかるってことでしょう?」

 時に人は、相手を思いやるあまり、真実の言葉を飲み込んでしまう。その優しさが却って誤解を生み、心の距離を広げてしまうことがある。クリスマス会のサプライズ然り、誰かの優しい嘘ですらも、特別な力をもった鹿乃子を時に傷つけることを左右馬はよく理解しているのだろう。

「お母さん、会いにきてくれてありがとう」

 松本穂香は、その一言に、長い年月を経てようやく母に会えた喜びと、この街で見つけた鹿乃子の強さを、見事に込めていた。「ただいま」でも「おかえり」でもなく、「ありがとう」。鹿乃子の心の機微を飾らない表情と凛とした声で表現した一言は、観る者の胸にそっと温かな余韻を残していったのではないだろうか。たくさんの「ありがとう」を抱えながら、鹿乃子はこれからも強くなっていくのだろう。

■放送情報
『嘘解きレトリック』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:鈴鹿央士、松本穂香、味方良介、片山友希、大倉孝二、磯山さやか、今野浩喜、村川絵梨、櫻井淳子、杉本哲太、若村麻由美ほか
原作:都戸利津『嘘解きレトリック』(白泉社・花とゆめコミックス)
脚本:武石栞、村田こけし、大口幸子
演出:西谷弘、永山耕三、鈴木雅之
プロデュース:鈴木吉弘、狩野雄太
制作協力:AOI Pro.
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/usotoki/
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