『モアナと伝説の海2』北米で歴史的ヒット イーストウッド最新作はタイミングに恵まれず
北米の感謝祭シーズンを、ディズニー最新作『モアナと伝説の海2』が席巻した。11月2日(水)に公開された本作は、12月1日(日)までの5日間で北米興行収入2億2100万ドルという衝撃的なロケットスタートとなった。
感謝祭の興行収入(5日間)として、本作は『アナと雪の女王2』(2019年)を上回る歴代新記録。5日間のオープニング興行収入としても『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の2億560万ドルを超えて歴代記録を更新したほか、週末3日間の興行収入(1億3550万ドル)でも『アナと雪の女王2』を上回り、ディズニー・アニメーション作品の新記録となっている。
海外市場の興行収入は1億6530万ドルで、ラテンアメリカとオーストラリアではディズニー・アニメーション史上最高のオープニングとなった。全世界のオープニング興収は3億8630万ドルで、前週公開の『ウィキッド ふたりの魔女』を早くも上回っている。
ディズニー・エンターテインメントのアラン・バーグマン共同会長は、この結果を受けて「『モアナと伝説の海2』は今週末、我々の大きな期待をさらに上回り、『モアナ』現象を証明してくれました。記念すべき瞬間であり、記録的なスタートを後押ししてくださった観客とファンの皆さんに感謝します」との声明を発表した(※)。
2024年、ディズニーは映画館における自社ブランドの復活にみごと成功した。コロナ禍において、いくつかの有力作を劇場公開からディズニープラスでの配信リリースに切り替えたディズニーは、その後『バズ・ライトイヤー』(2022年)や『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(2022年)、『マイ・エレメント』(2023年)、『ウィッシュ』(2023年)で苦戦。実写映画も作品ごとに成績のばらつきが大きかった。しかし、今年は『インサイド・ヘッド2』と『デッドプール&ウルヴァリン』が映画市場を猛烈に牽引、さらに本作が追随する形となったのだ。
もともと『モアナと伝説の海2』はディズニープラスのアニメシリーズとして計画されていたが、2024年2月に長編映画として再構築、劇場公開されることが決定(コロナ禍とは真逆の戦略だ)。内部試写での反応が非常によかったこと、前作『モアナと伝説の海』(2016年)が劇場公開後に人気を伸ばしつづけ、2023年には「ストリーミング配信で最も観られた映画」となったことが大きな理由とみられる。
声優陣には、モアナ役のアウリィ・クラヴァーリョ、マウイ役のドウェイン・ジョンソン(今回は製作総指揮も兼任)が続投。Rotten Tomatoesの批評家スコアは65%と厳しめだが、この手の作品は批評的反応が興行に直結することはほとんどない。観客スコアは87%、映画館の出口調査に基づくCinemaScoreは「A-」評価と上々だから、口コミ効果やリピート鑑賞にも期待できそうだ。日本公開は12月6日。
ただしハリウッドの現状を見つめるうえでは、『モアナと伝説の海2』の大ヒットを、前週公開の『ウィキッド ふたりの魔女』と『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』が支えたことを無視するわけにいかない。女性客中心のファンタジーミュージカル映画と、男性客中心のR指定歴史アクション映画が巻き起こした相乗効果が、日頃あまり劇場に足を運ばない観客の興味をかきたて、そこに『モアナと伝説の海2』が登場したことで最大の効果が生まれたと分析されているのだ。
『ウィキッド』と『グラディエーターII』は、感謝祭の興行も大いに盛り上げた。『ウィキッド』は5日間で1億1750万ドルを記録し、北米興収は2億6242万ドル、世界興収は3億5927万ドル。北米では『グリース』を抜いてブロードウェイミュージカル原作映画の興収記録を更新し、1年後の続編に向けて優れた推移を続けている。『グラディエーターII』も5日間で4400万ドルを稼ぎ出し、北米興収1億1120万ドル、世界興収3億2000万ドルとなった。『モアナと伝説の海2』を含む3作品はすべてIMAX上映が行われているため、観客の需要を満たすにはスクリーンが足りなかったほどだ。
北米市場全体の興行収入は5日間で4億2500万ドル(推定)と、感謝祭シーズンの歴代記録を更新。これまでの最高記録は『シュガー・ラッシュ:オンライン』と『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』、『クリード 炎の宿敵』が重なった2018年の3億1500万ドルだったから、もはや「コロナ禍以降として」という枕詞は必要ない。昨年は市場全体でわずか1億2500万ドルだったため、上昇幅は3.4倍。「一部の映画がヒットしているだけ」「一部のスタジオが強いだけ」という言葉で説明できるものではない。
コロナ禍以前との具体的な比較は年末にも改めて行うとして、北米映画市場が回復傾向に向かっていることは確かだ。2023年には全米脚本家組合と全米映画俳優組合のWストライキがあり、さらに厳しい状況が待ち受けるとも危惧されたが、夏以降の回復ぶりはめざましい。前週、全米劇場所有者協会のマイケル・オリアリー会長が「健全な競争と特別な体験が融合すれば、映画市場は繁栄し、観客も勝利する。全世代の映画ファンが劇場に行くことを楽しんでいます。映画館での体験に勝るものはありません」と事実上の勝利宣言をしたことも納得できるというものだ。