『マダム・ウェブ』には旬の女優が勢揃い! アラサー世代に刺さる00年代リスペクトの作風

『マダム・ウェブ』には旬の女優が勢揃い!

 2024年は、『ヴェノム:ザ・ラストダンス』『クレイヴン・ザ・ハンター』など、ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(以下、SSU)の劇場公開作が盛況だが、同じくSSUの『マダム・ウェブ』も印象的な作品だった。ソニー制作の実写スパイダーマン映画としては久しく、しかもアクションではなくミステリー・サスペンスのジャンルで作られている点が面白い。何より出演キャストが粒揃いな本作。『マダム・ウェブ』独特の魅力は、昨今のヒーロー作品と一味違うところにあるのではないだろうか。12月4日に4K UHD+ブルーレイ、ブルーレイ+DVDが発売されたので、本作を振り返ってみよう。

アラサー以上の世代に刺さる2000年代の空気感

 NYで救急救命士として日々忙しなく過ごす主人公のキャシー・ウェブ(ダコタ・ジョンソン)。しかし彼女の出生には大きな秘密が隠されていた。ある日、臨死体験を経験したことから少し先の未来が突発的に予知できるようになった彼女は、ある男から3人の少女の命を守ることになる。

 本作の大きな見どころであり、特色は、舞台が2003年に設定されていること。街中には当時発売されたばかりのビヨンセの「Dangerously In Love」のポスターが掲げてあったり、ラジオからはブリトニー・スピアーズが同年に発表したアルバム「In the Zone」に収録されている「Toxic」が流れていたり、劇中の曲にも時代性が反映されている。

 映画の始まりでキャシーたちが救急車を街中で走らせるとき、ちらっと見えるブロックバスターは、1990年代と2000年代初頭を代表するレンタルビデオチェーンであり、マーベル映画としては『キャプテン・マーベル』にも登場し、その存在感を発揮している。アジア圏ではなじみがない店に思えるが、一応かつては日本でも事業展開をしたことがあった。しかし2013年に倒産したことで、今はもうその姿が見られない。ただ、ブロックバスターのある“あの頃”は決してアメリカ的な風景にとどまらず、私たちの思い出に刺さってくる。そう、この映画、アラサー以上の世代にとっては刺さりまくるものが多いのだ。

 特に、主人公キャシーが特別な能力を使って人を助ける、という設定は2000年代に流行った海外ドラマ……例えば主人公が生前に未練のある死者に話しかけられ、その瞬間からその日を再びやり直せる能力を持つ『トゥルー・コーリング』(2003〜2005年)や、同じく死者と会話し、彼らの魂を天国へと導く主人公を描く『ゴースト 〜天国からのささやき』(2005〜2010年)などを彷彿とさせる。あの頃は類稀なる能力や才能を持つ女性がメインキャラのドラマが多かった印象だ。

 キャシーに限らず、命を狙われる少女ジュリア(シドニー・スウィーニー)、マティ(セレステ・オコナー)、アーニャ(イザベラ・メルセド)らが結束してヴィランのエゼキエル(タハール・ラヒム)に立ち向かうシスターフッドを描く『マダム・ウェブ』にも、その空気感が流れているのが良い。それもそのはずで、本作を監督しているのはテレビシリーズ『マーベル/ジェシカ・ジョーンズ』を手がけたS・J・クラークソン。女性が活躍するサスペンスはお手のものというわけだ。そして何より本作がスーパーヒーロー映画でありながら、アクションではなくミステリー・サスペンスとして作られている点も、上記に挙げた当時の海外ドラマの流行りに重なっている。

キャラクターそれぞれの魅力が強調された作劇

 スパイダーマンの映画は、手からウェブを出す能力があるから、ビルとビルの間をスウィングしたり、壁を這い上っていったりするようなアクロバティックなシーンをどうしても期待されてしまう。しかし、本作はそれがなく(キャシーが一瞬家の中でよじ登りチャレンジをするも失敗)、あくまで“予知能力を持つ主人公が“未来”を守るために“過去”を訪れ、“今”を強く生きようとする物語としてまとまっているのが良い。

 将来、スーパーパワーを持って悪者をやっつけるようになる少女たち。その“未来”を奪ってしまおうとするエゼキエル。彼は過去、キャシーの母コンスタンス(ケリー・ビシェ)が見つけた特殊な蜘蛛を奪い、その過程で彼女に発砲した。コンスタンスが疾患を持って生まれてくるとされていたお腹の中の自分の娘、そして多くの難病を抱える人のためにこの蜘蛛の特殊能力を使おうとしていた利他的な目的に対し、エゼキエルは自身の力と富のために蜘蛛の特殊能力を使おうとする利己的な存在として対照的に描かれていた。そんな彼に、母から譲り受けた利他的な精神で救急救命士として人の命を救うキャシーが立ち向かう構図が良い。

 最初は彼女も親の愛情を受けて育ってこなかったせいで、何に対しても愛着や執着がわかず「家族」が関わるようなイベントには出向かないようにしていた。野良猫に餌はやるが自分が飼おうとは思わないし、見ず知らずの少女たちをおいていこうともする。責任を持つこと、そして“母性”が欠けていた彼女が最終的に過去に立ち返り、亡き母の本音を知ったとき、少女たちの母親代わりのような形で命を賭して救おうとする展開も胸が熱いのだ。本作は派手なアクションシーンがない分、キャラクターそれぞれの魅力や成長、そこに描かれる意味に集中できるのが良い。これまでのスパイダーマン映画でも、もちろんどちらも両立している作品はあった。しかし、たまにはこういう路線の作品が見られるのもシリーズのファンとしては嬉しい。とは言いつつ、『マダム・ウェブ』もカーアクションの迫力が凄まじかったりするので、そこにはぜひ注目していただきたい。

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