朝ドラヒロインはどうあるべき? 『おむすび』主人公の名前が結/ムスビンである理由

『おむすび』主人公の名前が結である理由

 朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』の結(橋本環奈)が朝ドラの主人公らしく見えない理由はギャルファッションだけではなかった。それは、自分の進路を「彼氏」基準で選択しているからである。

 朝ドラのヒロインは時代が戦前戦後であろうと現代であろうと、男性優位の社会に抗って、自分を主体にして、やりたいことに邁進することを脈々と描いてきた。道を開くファーストペンギンになろうとしたのは『あさが来た』のあさ(波留)だったが、これまで女性主人公たちが頑張って、開いてきた道を結はあっさり閉ざしてしまう。けろっと、まったく悪びれず、てらいなく「“彼氏のために”栄養士になりたいです」と栄養学校の自己紹介で公言する。「なんてこと言ってくれるんだ!」と思った女性もいたのではないだろうか。歴代朝ドラ主人公も、「おい後輩! なんてことしてくれてんだ!」と青ざめているのでは。

 水に落ちたり、たまり場があったり、朝ドラあるあるなども随所に盛り込んでいながら、なぜ今回、あえてこれまでと違う道を選ぶのだろうか。 

 『おむすび』第8週「さよなら糸島 さよなら神戸」(演出:盆子原誠)では、結たちの旅立ちの日、駅までの見送りにはハギャレンも祖父・永吉(松平健)もいない。永吉は意地を張っているのだろうと思うが、ハギャレンはなぜ? いつでも会えるからという感じなのだろうか。永吉も朝ドラによくある、道中、待ち伏せていて盛大に見送るみたいなことをしない。彼が大事にしている畑作業をしながら子どもや孫をそっと思う。彼の気持ちをわかっているのは長年連れ添った佳代(宮崎美子)だけ。これはこれでいい感じである。

 そして神戸。さっそくはじまる栄養士学校の日々。結は初日にスズリンお手製のネイルをつけて、メイクもファッションもばっちりギャルで決めて登校する。じつはここは、朝ドラヒロインっぽい。自分のやりたいことを貫いているからだ。だが、やりたいことにもTPOがある。ここは清潔第一の調理の場。案の定、先生に注意されてしまう。メイクも落とすように言われ、結は戦闘服をねこそぎ剥がされ、丸腰に。

 この展開は未熟な主人公が学ぶ過程のひとつというお約束でまあいいかと思うのだが、自己紹介で結は、野球選手である彼氏のために栄養士になりたいと浮かれたことを言う。先述した通り、朝ドラが築いてきた女性の道をぶち壊すような行為であった。

 さらに、その彼氏である四ツ木翔也(佐野勇斗)も存外頼りない。これから社会人野球で活躍することを目指すというのに、結との結婚を夢見てやや浮かれ気味。それはまだ微笑ましくあるが、野球は得意だが会社の仕事は苦手で、電話に出る研修で、電話に出ることがうまくできず、おどおどしてしまう。

 電話が苦手な若者というのは、昨今増えている。スマホが普及すると、電話ではなくメールやSNSで連絡を取り合いたいと考える若い世代が増えて、電話が苦手ということも市民権を得た感がある。翔也は会社の上司に呆れられていたが、彼のような個性があっていいとされるまでにはあと数年待たないとならない。

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