齋藤飛鳥は“翳り”のある役こそハマる 『ライオンの隠れ家』『【推しの子】』で光る芝居
現在放送中の金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)では、視聴者の間で様々な考察が行われている。その中で物語の鍵を握る人物の一人を演じているのが、TBSドラマ初出演を果たした齋藤飛鳥である。
本作は、市役所で働く平凡で真面目な優しい青年・小森洸人(柳楽優弥)と自閉スペクトラム症の美路人(坂東龍汰)の兄弟が、突然現れた「ライオン」と名乗る謎の男の子(佐藤大空)との出会いをきっかけに“ある事件”に巻き込まれていくヒューマンサスペンス。兄弟愛や家族の絆を感じさせるハートウォーミングなストーリーかと思いきや、サスペンス要素が随所に散りばめられており、スリリングな展開にも注目が集まっている。
齋藤が演じるのは、柳楽演じる洸人の後輩で、子ども支援課で子ども相談窓口を担当している牧村美央。公式プロフィールに「責任感が強く、何でも自分でできるしっかり者」と書かれているように、洸人のために車を運転したり、ライオンの面倒を見てあげたりと、面倒見が良くお人好しな性格。とは言っても、言いたいことははっきり言う優しさも持ち合わせている。第1話の時点では、洸人の後輩の関係にとどまるものだとばかり思っていたのだが、回を重ねるにつれて、物語の核心に迫る重要な人物であることが明らかになってきた。
そんな美央について、齋藤は「美央ちゃんはすごくしっかりしていて、自分の意思をはっきり持っているタイプ。けれど、そこに至るまでに何があったのか、どういうふうに考えを巡らせてここまで生きてきたのかという背景も大事にしながら演じたいと思っています」と語っている(※)。以前は保育士として働いていたが退職していたという過去を持つ美央が、涙を流しているシーンも描かれており、過去に辛い記憶を抱えた美央の翳りを齋藤は随所で表現している。
第5話ではライオンの母・愛生(尾野真千子)が生きていることが発覚し、物語は一気に動き始めた。X(岡山天音)は美央と連絡を取っており、Xの「そうやってまた見殺しにするんですか」という発言から、過去に美央が何か(何を指しているのかは現時点ではわからない)を見殺しにしていたことが判明する。職場での快活で人懐っこい齋藤の自然体な芝居、そしてXと連絡を取っているときの翳りのある表情。端的に言えば、その陰と陽の演技が上手ということになるのだが、齋藤の場合ははっきりと区別できるものではなく、キャラクターが持つ重層的なパーソナリティを反映した見事な演技で表現してみせている。
これは本作に限ったものではなく、未山の前から姿を消していた元恋人・莉子を余白たっぷりに演じた映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』、刑事として事件の真相に迫っていく娘・零花としてアクションシーンにも挑戦したドラマ&映画『マイホームヒーロー』、少し俯瞰して物事を見ているような大人びた一面がありながらも、自身は人間関係に苦手意識を持っている潮このみを演じた『いちばんすきな花』(フジテレビ系)など、近年の作品は齋藤の複雑で奥行きのある芝居を見せることが多い。