『ONE PIECE』の世界に『FILM RED』がもたらした新時代 映画とTVアニメがひとつなぎに

『ONE PIECE FILM RED』がもたらした新時代

 この後、TVアニメの第1112話「激突!シャンクスVSユースタス・キッド」でもシャンクスは、ルフィと同じ“最悪の世代”に属する海賊ユースタス・キッドの襲撃に単身で立ち向かい、剣の一閃でキッドを吹き飛ばしてキッド海賊団を壊滅へと追い込む。どこまでも謎めいた存在で、その強さを見せないからこそ最強といったイメージが長くあったシャンクスが、『FILM RED』で戦えばやはり最強だと見せたことで、以後の展開でもリミッターを外しやすくなったのかもしれない。

 その意味でも、物語の展開に“新時代”をもたらした『FILM RED』は同時に、シャンクスを通して劇場版とTVアニメの『ONE PIECE』の世界を、より融合させる役割も果たした。シャンクスに娘がいたということに五老星が反応したのは、そこに「フィガーランド家」という世界貴族の一族が関連してくるのではないかと考えたからだ。

 原作にはないエピソードが描かれている劇場版の設定を、『ONE PIECE』という作品世界全体の中でどのように位置づけるかは常に議論の的だった。細田守監督が手がけた『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』で、ルフィやサンジの設定が他と違っていることから、パラレルワールドの物語と見るべきだといった意見もあった。

 これが、尾田栄一郎が本格的に劇場版に関わってくるようになった『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』以降、映像の中で起こることは『ONE PIECE』の世界で起こったことといった認識が強くなった。『STRONG WORLD』でルフィたちと戦う海賊、金獅子のシキは本編にも登場して、劇場版とTVアニメの世界を“ひとつなぎ”にした。

 『FILM RED』で五老星が言った言葉も、シャンクスの出自を推定する上で重要な情報と見なされ、漫画も含めた作品世界でシャンクスが特別視されている理由をうかがわせた。これからの展開でシャンクスがどれだけ重要な役割を果たすか、結末にどう関わってくるかが今は楽しみで仕方ない。

 ウタという存在自体も、『ONE PIECE』という作品世界の中にしっかりと位置づけられた。シャンクスが「そんなに怖いか?『新時代』が!!!」と言ったTVアニメの第1082話に、ウタのような人物のシルエットが登場する。明言されていなくても、ウタ以外にはありえないと思わせるフォルムだった。原作にも同じシーンでシルエットが描かれるが、TVアニメのほうがよりウタらしかった。『FILM RED』を観てウタのファンになった人を喜ばせようとしただけではなく、作品にとって不可欠な存在だと位置づけようとする意図が感じられた。

 こうした展開によって、改めて『FILM RED』のストーリーが持つ意義が大きくなった。ルフィが海賊王を目指して進み続ける裏側にウタとの日々があり、新時代を作ろうという意識にウタとの再会があったと思えるようになった。ともすればお祭りになりがちな劇場版を、しっかりと作品世界に取り込んで新時代”への道を拓いた『ONE PIECE FILM RED』。ファンなら見ない手はない。

■放送情報
映画『ONE PIECE FILM RED』
フジテレビ系にて、10月13日(日)19:00~21:24放送
出演:田中真弓(モンキー・D・ルフィ)、中井和哉(ロロノア・ゾロ)、岡村明美(ナミ)、山口勝平(ウソップ)、平田広明(ヴィンスモーク・サンジ)、大谷育江(トニートニー・チョッパー)、山口由里子(ニコ・ロビン)、矢尾一樹(フランキー)、チョー(ブルック)、宝亀克寿(ジンベエ)、池田秀一(シャンクス)、名塚佳織(ウタ:ボイス)、Ado(ウタ:歌)、津田健次郎(ゴードン)、山田裕貴(エボシ)、粗品(ハナガサ)、せいや(カギノテ)
、桑島法子(サニーくん)、新津ちせ(ロミィ)、梶裕貴(ヨルエカ)
原作:尾田栄一郎『ONE PIECE』(集英社『週刊少年ジャンプ』連載中)
監督:谷口悟朗
脚本:黒岩勉
音楽:中田ヤスタカ
キャラクターデザイン・総作画監督:佐藤雅将
美術監督・美術:加藤浩
©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

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