ザック・スナイダーによる“本気”の北欧神話 『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ』の“伝承”

 ワーナー・ブラザースのDCコミックス実写大作映画シリーズを統括する任を降りて久しいザック・スナイダー。彼は現在Netflixをプラットフォームに、精力的に作品を送り出している。今回、そんなザック・スナイダーが公私にわたるパートナー、デボラ・スナイダーとともに、自身の製作会社「ザ・ストーン・クアリー」からリリースしたNetflixオリジナルアニメシリーズが、『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ 〜神々の黄昏〜』だ。

 このシリーズが描くのは、意外なほど、“かなり本気”の「北欧神話」。キリスト教化以前に北欧で伝えられてきた、壮大な神族や巨人、人間たちの物語を基に、新たな解釈で神話世界での冒険と戦争を、ダークなトーンで描いていくのだ。テイストは『ゲーム・オブ・スローンズ』に近く、過激なバイオレンス、セックス描写が含まれている、大人向けのアニメーションである。

 神話をヒーローの物語として描いたマーベル・コミック作品『マイティ・ソー』をはじめ、映画やアニメ、コミックなど、西洋のさまざまな物語の根幹にあるのが「北欧神話」だ。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローンズ』、『アナと雪の女王2』(2019年)、『ザ・ウォッチャーズ』(2024年)など、娯楽作品を観る際に、しばしばわれわれは、北欧神話由来のモチーフを作中で目にすることになる。それは、美術や演劇をはじめとする西洋文化のひだに、神話の物語が自然に織り込まれているからでもある。だが、東洋の人々が北欧神話そのものの世界観に触れる機会はそれほど多くないかもしれない。

 その点では、『ゴッド・オブ・ウォー』や『アサシン クリード ヴァルハラ』など、ゲームの大作で、リアルに表現された神話の世界そのものを体験している人が多く、馴染みが深いといえるのではないか。それがアニメシリーズで堪能できるという意味において、北欧神話の世界や、登場する神々がそのままの存在として描かれる『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ 〜神々の黄昏〜』は、なかなか得難い作品であると考えられる。

 注目したいのは、中心スタッフに大作ゲームのヴィジュアルアーティストや、コミックアーティストなどを揃えているところだ。その結果として、2Dアニメ作品でありながら、同時にアメコミヒーローが活躍するゲーム作品のような躍動感に溢れるとともに、派手なエフェクトが炸裂して壮大なバトルを盛り上げる内容に仕上がったといえる。そう考えれば本シリーズは、神話を基にしながらコミックやゲームなどのカルチャーが複雑に混じり合うミクスチャーとしての有り様が際立っていると感じられるのだ。

 本シリーズの特徴はまだある。世界の中心「アースガルズ」の神々である「アース神族」が、無慈悲な破壊者として描いているという点だ。なかでも最強の戦神としても知られる「雷神トール」は、「ヨトゥンヘイム」の巨人族たちの前に現れるや、凄まじい電撃攻撃によって大勢の者を吹き飛ばし爆散させ、大量殺戮をおこなっていく。その描写は凄まじく、大量の血液が飛び散ったり、内臓が地面に散乱する有様だ。このエクストリームな表現は、いかにもザック・スナイダー風であると同時に、配信作品の特性が活かされたものである。ここは、両者の相性の良さが再認識できるところだといえよう。

 トールといえば、『マイティ・ソー』におけるヒーローで、映画シリーズではクリス・ヘムズワースが演じていた「ソー」と同じ神のことを指している。コミックやヒーロー映画では人間の世界を救う存在として描かれているが、ここでは最悪最凶のヴィランとして、主人公シグリッドの仇となるのである。

 巨人族と人間の間に生まれたシグリッドは、親族や仲間たちを殺害され、復讐のため立ち上がることとなる。恋人であるヴォルスング族の王レイフを始め、ドワーフや戦士、人狼、詩人、魔女ら仲間たちを集めて、トールを殺すための旅を続けていくのである。この流れは、ザック・スナイダーが監督した『REBEL MOON』シリーズにも近いものがある。そんな復讐者たちを助けるのは、巨人と神の血を引く、嘘と混沌の神「ロキ」である。

 この冒険と戦闘の物語が紡がれていく各エピソードには、まさに神話の世界そのものを舞台にしていることで、その大きな影響下にあるファンタジー小説やロールプレイングゲームの始原となる光景を目にしているという充実感がある。この大元となる世界の姿を知ることで、われわれはより西洋の作品への理解を深めることができるはずである。現代的な解釈と表現で、それを見ることができるところが、本シリーズを鑑賞する利点となっているのだ。

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