『アガサ・オール・アロング』解説レビュー ダークでカオスな物語&MCU重要作への布石か

『アガサ・オール・アロング』解説レビュー

『オズの魔法使い』を彷彿とさせる旅路が始まる

 本当はすごい魔女なのに正体を隠したり、魔法を奪われていたり、行方不明の母の影を負ったり。本作は現代に生きる魔女の苦労を描く点も画期的で、彼女たちが各々“欠けたもの”を探しに“魔女の道”を進もうとするプロットは、『オズの魔法使い』を彷彿とさせる。

 “ティーン”が何度か「ペット」と呼ばれていることもドロシーの愛犬トトへのリファレンスであり、第2話のラストショットがみんなの脱いだ“靴”で終わるのもドロシーの靴を思い起こさせるのだ。実は靴を脱ぐ工程はエンドクレジットの映像内の書物に書いてあって、全文を訳すと以下のようになる。

 「神聖な地面に触れる前に靴を脱ぎなさい。大地の力とつながるためには、足を土に触れさせ、その神聖な魔法を、自分を通して導かなければならない。肉体と土の間には何もあってはならない。ゴムや木、靴底ではなく魂のみがそこにあることを許される」

 その文章の上には「魔女の道を行く。友よ、私についてきなさい。終わりにある栄光へ向かおう」と書いてあり、今始まったばかりのアガサたちの旅路を表している。一体彼女たちが“魔女の道”で見つけるものは何なのだろうか。

『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス(原題)』への布石になり得る重要人物も

 第1話、事故現場で発見したロケット(のちにアガサの物だと判明する)の中には黒い髪の毛が入っていた。おそらくこの紙はアガサのものではなく彼女の息子のもので、その息子らしき人物が彼女の家に忍び込んだ“ティーン”なのではないかと考えられる。“ティーン”はアガサのことを知っていて、彼女をワンダの呪縛から解放した。しかし、自分の素性を話そうとすると口が塞がったり、声が聞こえなくなったりして、本人はそれに気づけない。名前を言おうとする時の口の塞がりがマキシモフの「M」の字に見えてしまうのは気のせいだろうか。

 この“ティーン”の正体は、おそらく本作における最も重要な謎の一つだ。アガサは原作では1970年1月の『ファンタスティック・フォー』第94号に初登場し、1979年代にファンタスティック・フォーのリード・リチャーズの息子フランクリンの乳母をしていたのだ。息子のスクラッチとは自分が魔女として迫害された街で仲違いし、別れている。その後、その街の支配者になったスクラッチはファンタスティック・フォーの支援をしていたアガサを裏切り者とし、フランクリンと共に拉致すると魔女裁判にかけた。そこをファンタスティック・フォーが助けに来て、悪事がバレたスクラッチは別宇宙に追放された。フランクリンが成長し、乳母としての役割を終えたアガサは、次に魔法を指南。その後、戻ってきたスクラッチの世界征服の野望を阻止するのであった。

 “ティーン”の正体がスクラッチなら、2025年劇場公開の新作映画『ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップス(原題)』でMCUに本格合流するファンタスティック・フォーとの橋渡しとなる存在になり得る可能性が高く、『アガサ・オール・アロング』が今後のMCUにとって重要な作品になるかもしれないのだ。

  “ティーン”のもう一つの正体として考えられるのが、アガサではなくワンダの息子ビリーである。彼は『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でワンダの奇襲を受け、彼女に「魔女だ!」と言った別次元のビリーで、あれ以来魔女の存在が気になって研究し、何らかのきっかけでこの次元にやってくることができたのだとしたら……。実際、テーマカラーがワンダは赤、アガサが紫なのに対して、本作のキャラクタービジュアルでは“ティーン”の色が“青”であり、三者が色としてもグラデーションのように関わっているのが、筆者の少し気になる部分である。

■配信情報
『アガサ・オール・アロング』
ディズニープラスにて独占配信中
©2024 Marvel

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