『エイリアン:ロムルス』は原点に立ち返る一作に フェデ・アルバレス監督の手腕を検証

原点に立ち返った『エイリアン:ロムルス』

 一方で、このような作り方をしたことで、本作自体のカラーはそれほど強くないものとなったのも確かだろう。それは例えば、デヴィッド・フィンチャー監督の3作目が、観客の評価が低かった反面、独自の美意識が突出した内容になったことと対照的だといえよう。そういう視点で見れば、本作は監督の作風で勝負することを避けた一作だとなったのではないか。その代わり、より広い観客に受け入られやすいバランスを獲得し、ヒットに繋がったのだともいえる。これは実質的に「21世紀フォックス」の『X-MEN』映画シリーズの振り返りとなった、『デッドプール&ウルヴァリン』のヒットに近いものがあるのではないか。

 そんなアルバレス監督が思い切ったのは、第4作のクリーチャーの誕生の表現に、人為的な遺伝子の混入によって、さらなる悪趣味な要素を加えているところだ。これもまた、『ドント・ブリーズ』の悪趣味な展開を変奏しながら、『エイリアン』世界と融合させたものだと考えられる。女性の身体を悪趣味な趣向に利用する表現自体の是非はともかくとして、こういった表現を駆使しながら、若者の不安定な時期の問題や、貧困層の搾取の問題に、後半以降もフォーカスしていく内容であったのならば、本作は総まとめとしての価値ではなく、これまでのシリーズと並ぶ一作として記憶されたように思えるのである。

 とはいえ、ここまで観客を楽しませる内容にし得たのは、監督の持ち味の一部だという指摘もできるかもしれない。名作ホラーシリーズ『死霊のはらわた』、『悪魔のいけにえ』を現代の観客にフィットさせる内容に噛み砕き、その特徴をうまく料理してきた手腕もまた、監督の作風であり長所だといえる部分もあるからだ。

 忘れてはならないのは、『エイリアン』を題材としたゲーム作品『ALIEN: ISOLATION』(2014年)からの影響である。じつはアルバレス監督は、もともとはこの作品をプレイすることで、現代に『エイリアン』の恐怖を蘇らせることができるのではないかと考えるようになったのだという。つまり、映画を基にしたゲームがきっかけとなり、その感覚が、また映画へと還流したということだ。

 ゲーム中には、これまでのプレイ情報を記録する「セーブポイント」の目印として「緊急電話」が登場する。「セーブ」が必要ということは、その後にプレイヤーを困らせるような戦闘が待っている可能性が高い。映画にもこの電話が登場することで、嫌な予感を喚起させていると監督は示唆している。登場人物たちがいくつもの山場を超えていくという本作の構成が、何となくゲームをプレイしているような印象があるのは、こういった試みにもあったのではないか。(※)

 こういった新しい感覚があってこそ、本作は新たな世代も含めた現代の観客に『エイリアン』シリーズの魅力を上手くまとめ上げて伝えることに成功したといえるのではないだろうか。そして、本作で一度原点に返って仕切り直しができたからこそ、また多様的な挑戦ができるという効果もあるだろう。その意味でフェデ・アルバレス監督は、過去と現在、未来をつなぐ大きな仕事を成し遂げたといえるのだ。

参照
※ https://www.gamesradar.com/entertainment/sci-fi-movies/alien-romulus-alien-isolation-easter-egg-emergency-phone/

■公開情報
『エイリアン:ロムルス』
全国公開中
監督:フェデ・アルバレス
製作:リドリー・スコット
出演:ケイリー・スピーニー、デヴィッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセード
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:Alien: Romulus/全米公開:2024年8月16日
©2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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