『光る君へ』吉高由里子が向き合い続けてきた“書” 『源氏物語』誕生への思いも明かす

吉高由里子、『源氏物語』と向き合って

 NHK大河ドラマ『光る君へ』で主演を務める吉高由里子。まひろ/紫式部はついに後世まで語り継がれる『源氏物語』の執筆を始めた。注目すべきは劇中で映される文字も吉高自身が書いているという点。筆と向き合う喜び、道長との関係性など、ここまでまひろとして生きてきた思いをじっくりと語ってもらった。

紫式部として向き合ってきた“書”

――ここまで撮影が進んできた中での手応えや変化はありますか?

吉高由里子(以下、吉高):制作発表から2年以上が経っています。一つの作品にこれだけ長い間携わるのは朝ドラ以来で、朝ドラも10カ月なのでそれ以上です。私が紫式部だなんていまだに思ったことはないですけど、「パープルちゃん」と呼んだりしながら、みなさんに愛されるキャラクターになればいいなと思いながら演じています。自分の中での目に見える成長というのは「書」かなと思いますね。撮影が始まる半年以上前からコツコツ練習をしてきました。第2回からすでに書くシーンが多くありましたけど、今見たらそれは目も当てられない字です。まひろも10代だったし、今は30代後半から40代までを演じていて、「役と一緒に吉高も成長したということですね」と言われます。書は向き合う時間だけ応えてくれるものだと思います。

――放送が始まる前の取材では「手が震える」「なるべく書くシーンを減らしてほしい」と話していました。

吉高:手の震えは日によって違うんですよ。練習時間は撮影本番の10分前で、その10分の間に仕上げてくれという謎のプレッシャーがあるんです。書の稽古では3〜40分ぐらい経って、やっと線が安定してくる感じがありますが、現場ではそんなに撮影を止められないので、10分でもちゃんとできるようにするには筆の傾き方、線がどっちに行きやすいとかを、家でコツコツ練習するしかないんですよね。たとえ家でできたとしても、本番になるとスタジオの湿度や風で墨の乾き方も変わってしまうんです。スタッフのみなさんには「お祈りしていてください」と言って、本番に臨んでいます。

――左の利き手を超えて、今では右手の方が書きやすくなっていると。

吉高:今となっては左手では無理だと思います。きっと筆の傾きも変わってきますし。「あ」とかの最後の膨らみの癖も全然違うみたいで。筆の毛先の向きが変わるらしいんです。もし今から左で書いたら、また違った字になっていくんだろうなと思います。筆も育っている感じが楽しいですね。楽しいけど、嫌ですけどね。「いやー!」って叫びながらいつもやっていますよ(笑)。

――まひろとして文字を書いていた時と紫式部として『源氏物語』を書く時とで、何か変わったことはありましたか? また、書道指導の根本知先生から何かアドバイスがあれば教えてください。

吉高:まひろとしては仮名文字を中心にして、道長(柄本佑)との文通では漢字を使ってみたりもしましたけど、『源氏物語』は仮名と漢字の両方が使われているので、その集大成が始まるという感覚はあります。現代ではあまり使われていない変体仮名も出てくるのですが、不思議とその変体仮名が読めるようになってきてしまって、身についてるのか、こびりついてしまっているのか、分からないんですけど。撮影の本番はまるで試験のような公開テストをされている感覚があります。怯えながらやっています。書き続けるとその人の癖が出てくるみたいで、根本先生はそういったことも理解した上で、「こっちの字の方が相性が良かったね」「ここはこういうふうにあえてやってみよう」というように組み合わせた字を提案してくださるので、ゴルフで言うキャディーみたいな存在です。書は孤独なんです。練習時間は膨大なのに、撮る時間は30秒もないので。家で書いている時間の孤独さを分かってくれるのが根本先生なので、相棒感が強いですし、一緒に挑戦している感じが心強いですね。

――これから書のほかに、まひろが挑戦していくことはありますか?

吉高:後半は子供との向き合い方ですかね。父の為時(岸谷五朗)とそうであったように、自分も同じことをしてしまっている連鎖がありますし、子供を育てるということが初めてなわけですからね。子に対しての向き合い方というのに悩まされてるところもありました。あとは、物語が思い浮かぶ時の筆が踊るスピード感と全く思い浮かばない苦しい自分という作家としての悩みが新たに出てきます。

――第32回で、父の為時から「お前が女子(おなご)であってよかった」と言われ、まひろが感動するシーンがありますが、吉高さんはどのようなことを思いながら演じていましたか?

吉高:そこは大事なシーンでした。「お前が男であったら」としか言われてこなかったまひろが、一番に認めてもらいたかったのが父だったと思うんです。父の文人としての遺伝子が、まひろを作家として注目される人物にしたのだと思いますし、「お前が女子であってよかった」と言われて、まひろはやっと生まれてきてよかったと思えた、彼女に対しては嬉しい一言だったと思いますね。内裏で役目を得られたことは彼女が居場所をやっと見つけられた、名前をもらえた時と同じぐらいの喜びだったと思います。父の一言でまひろは苦しかった今までが報われたんですよね。

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